鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―149―(liberalitati et animi Celsitudini ascribatur)」ことを訴えている(資料参照)。つまり献辞同時代の著名人の象徴的な図像を寄せ集めたものではなく、歴代の諸君主のインプレーサを掲載し、各地域の統治者の歴史的変遷を辿っていることにあるといえる。この献辞により、ストラーダは諸君主に歴史的な由来に基づく支配権の正当性と、歴史認識を重視することが君主の資質であることを訴えているのである。さらに、手稿本の献辞を読むと、オクタヴィオが著作を贈られる本人のインプレーサを意図的に欠如させ、ある仕掛けを施していることに気付かされる。各手稿本の献辞では一貫して、受容者の「卓越した気高さ(Illustrissima Celsitudo)」によりインプレーサ集の真価が把握され、読者の「高潔さと精神の気高さに書き加えられるでは、インプレーサ集の中の人物の美徳を読み取ることにより、そこに描かれていない受容者本人の美徳が補完され、一つの完結した世界を構築するように促されているのである。歴代の統治者や同時代人と自らの結びつきを印象付けるこのような手稿本の独創的な仕掛けは、美徳により構築された共同体の一員という意識を生じさせる役割を果たしていると考えられる。またこの共同体は、著作内で最も大きな割合を占めるハプスブルク家の諸君主を中心としたヒエラルヒカルな世界観を表象するものであった。4.インプレーサ図像の流通オーストリア国立図書館所蔵手稿本第9421−3番(以下『オーストリア本』と略記)の第3巻には、インプレーサ集として体裁の整った頁とは別に、127葉の表と裏、この後索引を挟んで162葉の裏と163葉の表に渡って15種22枚のルドルフ2世のインプレーサ図像が貼り付けられている。この22枚の中には、重複している図像が複数あり、これらの図像群が雛形として宮廷画家達に流通することにより、他のインプレーサや視覚芸術に複製されたことを示唆するものである。また、第126葉の表には、ヨリス・ヘーフナーヘルによるミニアチュール〔図2〕が貼り付けられており、ここに描かれた4つのインプレーサ全てが、前述の『オーストリア本』に貼り付けられたインプレーサ図像に対応している〔図3−6〕。その中で中央に鷲がいる上段と中段の計3つのインプレーサ図像は『シュンボルム集』に同様の図像が掲載されており、1601年に出版されたティポテイウスのこれらの図像に関するエピグラムによれば、オスマン帝国との戦いが神意に基づく正当なものであること、また、皇帝は国家の平安を祈願し、神を崇拝する意識と、抜け目なく敵を見つめる意識を同時に持つ皇帝の権能を表象したものだという(注11)。『シュンボルム集』

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