7池玉瀾研究―211―――柳陰呼舟の図様を中心に――研 究 者:実践女子大学 非常勤講師 濱 住 真 有はじめに本研究では池玉瀾(1727〜84)の画業を把握すべく、作品収集(既刊書からの図版収集、作品調査)及び関連資料・文献資料の収集を行なった。収集した作品のリスト(既刊書に掲載された図版と東京国立博物館資料館所蔵の写真資料による一覧)は〔表〕に示した。収集作業を進める中で、いくつか興味深い点が見出されたが、その中でも本報告書では特に、柳陰呼舟(柳の陰で舟を呼ぶ)という図様に焦点を当てて、作品を介した池大雅(1723〜76)、玉瀾夫婦の関わり方、影響関係の一端についての一試論を述べたい。以下、1.扇面における柳陰呼舟の図様と類似作品、2.『大雅堂画法』の“柳陰呼渡”と題された図、3.池大雅の実作に見られる柳陰呼舟の図様、4.柳陰呼舟の図様の継承―大雅から玉瀾へ、の順で報告する。1.扇面における柳陰呼舟の図様と類似作品 『南画研究』(第2巻第9号)には、池玉瀾の作品として柳陰呼渡図と題された扇面(以下、人見氏旧蔵本)〔図1〕が掲載されている(注1)。この扇面とほぼ内容を同じくする作品が、東京国立博物館所蔵の便面図巻、全十面中の第9図(以下、東博本)〔図2〕(注2)と、東博本と十面すべての内容を同じくするドイツのリンデン民族学博物館所蔵の扇面画帖、全十面中の第4図(以下、リンデン民族博本)(注3)に見られる。近景に、画面向かって左方向をまっすぐに指し示す童子と、その背後に荷を担いだ従者を描き、指し示された方向には漕ぎ進めてやってくる一隻の小舟が描かれている。人見氏旧蔵本〔図1〕をa、東博本〔図2〕をb、リンデン民族博本をcとして比較してみた。1)樹木の描写aはbの筆致に近いものであり、bとcで比較すれば、cは単調な線描のようであるのに対し、bは手前の柳の幹を太めにし、垂れ下がる葉の部分にも濃淡の強弱が見られる。2)人物の描写①左方向を指し示す童子:bと比べ、aもcも後方部(背中)に膨らみが生じて安定
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