―226―肉髻のある比丘形を主とする図は、計9図(15−④、18−前壁右、20−⑩、31−左5、31−右2〔図6〕、33−左6、33−右3、37−左2、42−左2)がみられる。仏を挟んで対称の位置にあらわされるのは女性天人形立像、天人形立像、童子と天人形立像などである。うち4図(31−左5、33−左6、37−左2、42−左2)においては、上部に円光とそのなかに跪く肉髻のある比丘が描かれる。第31窟と第33窟においては左壁に円光をともなう画面、右壁にともなわない画面が描かれている。胡人を主とする画面には二通りある。どちらも仏の両側には跪く胡人と荷をつけた駱駝・驢馬などの動物を描いているが、中央の仏が舟の上に立つもの4図(15−⑤、20−⑭、31−右1、33−右2)と、仏が通例のごとく蓮華座上に立つもの3図(15−⑩、20−⑥、33−左2)である。老比丘を主とする図は相似窟である第15窟(第13主題)と第20窟(第11主題)の二カ所にみられるのみである。以上、冗長になったが全ての図像を通覧したところ、数量的に武人形を主とした図が圧倒的に多く、またヴァリエーションが豊富であることがまず注意されよう。このような武人形の図像は亀茲にはみられず、武人形、すなわち王を主とする誓願図への好みはベゼクリクの特徴といえる。一方、胡人を主とする図は第15、20、31、33窟、老比丘を主とする図は第15、20窟に描かれるのみである。一窟に描かれる誓願図の数は、第15、20窟で15図と最も多く、次いで第33窟で14図、第31窟で12図となっている。ベゼクリクにおいて誓願図の画面のヴァリエーションはこの4窟にほぼ出尽くしており、またこれらの窟でも人物の類型、動作、供養の内容などの画面の要素は限定されたパターンが繰り返されていることから、既存の粉本の使用に制限されていた制作事情をうかがい知ることができよう。二.誓願図を描く窟の図像構成次に、ベゼクリク石窟の誓願図を描く窟の図像構成をみていくことによって、誓願図の制作背景について考察を試みたい。ベゼクリク石窟の各窟の図像構成については、すでに主尊別にグリュンヴェーデルが一通りの分類整理を行っているが、これを踏まえつつ窟型の違いも考慮すると、大きく次の三つに分けることができる。第一に、誓願図を描く窟のなかでも代表的な窟として取り上げられることの多い第15窟、第20窟は回の字型、すなわち方形の内陣(中堂)とこれをめぐる外陣(回廊)
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