鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―235―本研究はこの推測に基づき、時宗寺院本尊三尺阿弥陀立像のうち、筆者が過去および本助成研究において実査した現存代表例20躯余りについて、形状・服制・作風・制作時期・作者系統などの特徴を分類し、将来体系化すべき時宗本尊考の一部とすることとした。作例概要これより時宗寺院の三尺阿弥陀立像作例を順述してゆくにあたり、説明を簡略化するため、ある程度、形状やその着衣形式などによる簡単な分類をしておくことが適当であるとおもわれる。三尺阿弥陀立像の分類については、形状・作風などから細かな系統分別も可能であるが、ここでは大雑把ではあるが、時宗本尊三尺阿弥陀像の特徴を端的に示すため、次のようなグループを設定してみた(注2)。①快慶およびそれに追従する安阿弥様(快慶様)とその延長上に属する作例(来迎印を結ぶ。着衣形式は上体左肩を覆う衲衣と右肩を覆う偏衫を着け、衲衣は右肩の偏衫には全く懸かることなく、右腋下をとおって正面にまわる。腹部から下半身にかけての衣文の形状はY字型をつくる)。②安阿弥(快慶)様に属しない作例(来迎印。端的には①の安阿弥様の着衣形式に属さず区別される像。着衣は上体左肩を覆う衲衣と右肩を覆う偏衫を着け、衲衣が右肩の偏衫の上に懸かってから正面にまわるもので、腹部から下半身にかけての衣文の形状は安阿弥様と同じくY字型をつくる。快慶作にこの着衣形式はなく安阿弥様(快慶様)と別系統の祖型像に始まるとみられる)。③宋風の懸かった作例(鎌倉前期および後期に中央、そして鎌倉を中心とする関東において流行をみせた中国南宋時代の仏像・仏画の影響を受け造形された作例)④歯吹き阿弥陀およびその系統作例(時宗において信仰をあつめた霊像のうち、三尺阿弥陀立像の範疇で捉えられる歯吹き阿弥陀とその系統を引く作例)それでは以下に時宗の本尊阿弥陀像として代表形式とみられる三尺阿弥陀立像の実際の遺作例につき、グループ順に筆者の実査したおもな作例を紹介し、合わせて特記事項を略記してゆくこととする。①安阿弥(快慶)様三尺阿弥陀立像の作例①−1:栃木県足利市・真教寺本尊像は像高98.6センチの三尺像で、ヒノキ材寄木造、玉眼嵌入、首éに「アン(梵字)阿弥陀佛」他の銘があり快慶の作品とわかる。引き締まった体躯、左右の襟を単純にたくし込んだ着衣法など、快慶がアン(梵字)

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