鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―240―③−3:福井県小浜市・浄土寺本尊像は像高77.2センチの小振り三尺像。後補の脇侍を伴う三尊の中尊像。割矧造、玉眼嵌入、肉身金泥塗。着衣形式は右肩で衲衣が偏衫にかかるもので、腹から脚間にかけての衣文処理はY字形をつくらず、U字形の連続でつくるところが特徴である。時宗寺院の阿弥陀像としてはきわめて少ないタイプで、長身の体型、頭髪の形などと勘案し、宋風の懸かった像と考えられる。作風は慶派系の堅実さが備わっている。13世紀後半頃とみられる美作である。当寺は弘安2年(1279)覚阿開創と伝えている。本像の制作時期とは多少の遅れがある程度で、当初からの本尊とみてよかろう〔図14〕。④歯吹き系三尺阿弥陀立像の作例④−1:富山県富山市・浄禅寺本尊像は像高82.2センチ。割矧造、玉眼嵌入、着衣金泥塗。着衣形式は安阿弥様のように、左肩を覆う衲衣と右肩を覆う偏衫を着け、衲衣は右肩の偏衫には懸かることなく右腋下をとおって正面にまわる。腹部から下半身にかけての衣文の形状はY字型をつくる。口をわずかに開き前歯をみせる歯相表現が顕著で、頭髪は銅線巻き、足裏を実人様につくり、足éでなく当初、像底の銅管穴で台座に立てるという広く歯吹き阿弥陀作例に共通の技法がみられる。低い肉髻、生々しい面貌などは生身像表現もよくしめす。制作は13世紀後半とみられる。当寺は永仁2年(1282)、他阿真教により結縁、時宗に改宗したという〔図15〕。④−2:福井県小浜市・称念寺本尊像は像高79.2センチ。現在、江戸期の脇侍菩薩を伴う。寄木造、玉眼嵌入、漆箔。着衣形式は、右肩で衲衣が偏衫にかかり、僧祗支を着けて衲衣・偏衫が各所で弛む装飾的な像である。最たる特徴は口をわずかに開き、前歯をみせる「歯吹き」表現である。ただし足裏は通例の足éをつくり仏足文は表さない。低い肉髻、大粒の螺髪など鎌倉中期以降の特徴がみられ、面貌はやや人間くさいが歯吹き阿弥陀特有の生身像らしさといったというものではない。制作は13世紀末頃であろうか。当寺は14世紀後半の国阿上人開創と伝える〔図16〕。まとめ以上、代表的作例概要を列述してみたが、今回のまとめとして、最後にこの研究結果から考えられる時宗の三尺阿弥陀立像についての特徴を述べてみる。まず、時宗寺院では平安期や鎌倉初期といった時宗成立以前の阿弥陀像が本尊として相当数みられることが特徴である。これは、時宗成立期に既に周辺にあった阿弥陀古像等を、教団化した時衆がそのまま本尊として導入し、拝むことが広く行われたこ

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