―288―までほとんど知られていない稀有な作例とすることができるのである。2.常照皇寺本の構成 各段の概要とその特色常照皇寺本は、紙本着色、1巻、構成は、詞8段、絵8段からなる。内容は[西下途中詠詩]から[時平薨去]まで。全3巻調製の中巻にあたる零本と認められる。外題、奥書等はなく、付属資料等も伴わないので、制作時期、制作背景、伝来等については不詳とせざるを得ない(注18)。木箱に収められ内箱蓋表墨書「天満宮御縁起画ママ一巻」とある。蓋裏墨書「昭和四十五年春改表装 大耕代」とある。所蔵者の整巻上理番号「所蔵品No.257」と記すラベルを伴う。詞書は、漢字仮名交り文、漢字のほぼ全てに墨書の読み仮名(草岡神社本にはない)が振られる。本文は草岡神社本と同一テキスト、文字のスタイルも近いといえる。制作年代は、もっぱら絵画の様式による判断とならざるを得ないが、江戸時代初期、17世紀の写本とするのが妥当であるように思われる。これは同一図様をもつ草岡神社の奉納年(注19)との関連も思わせる。その様式は、岩や松樹の描法、人物の形態等から、その祖本はさかのぼって室町時代の土佐派系統、敢えて言うなら光茂周辺を想定したいが、これも草岡神社本の伝承筆者(土佐千代)とも符合する。伝来に関しては、現在直接的な資料を見出せない。しかし、現在常照皇寺に伝わる天神信仰遺品の多くが、明治初年に北野社から移されたものであることから、同絵巻ももとは北野社の所蔵であった可能性が残される(注20)。以下、常照皇寺本各段の概要を示す。(各段の絵については〔図1〜8〕参照)第1段・詞 [西下途中詠詩]の詞・絵 (詞書とは相違して)[謫所詠詩]の場面と見ておきたい。大宰府の謫所で詩を詠む道真、家臣1人。諸本の[恩賜御衣]の図様に似るが、御衣は描かれず、紙と硯箱が描かれるのみならず道真が詩を書する姿を描くのは諸本に類例を見ない。第2段・詞 [謫所詠詩、恩賜御衣、送紀長谷雄後集、天拝山]と続く。この段の本文は建久本のテキストと認められる。・絵 [祈天拝山]天拝山の上、束帯姿で坐し、祭文を奉げ読み上げる道真。天上(梵天)へ飛び去る祭文を、立って右手をかざして見上げる道真が描
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