―289―かれる。異時同図法的な場面構成であり、いずれも諸本に見出せない図様を示す。第3段・詞 [菅公薨去]・絵 [菅公薨去]謫所で右手を枕にして横たわる束帯姿の道真。ここでは次段の埋葬場面と切れているが、[菅公薨去]を描くのは、初期形成期(注21)の図様(専ら薨去と埋葬が一連の画面をなす)に多く見られる。第4段・詞 [安楽寺埋葬]・絵 [安楽寺埋葬]画面奥に山中の謫所、霞を隔てて、道真の遺体を載せた牛車、供に僧侶、童子。次場面、白い幕で覆われた埋葬の様子、嘆き悲しむ人々。数場面を合わせて描くことは諸本に見出せない構成である。第5段・詞 [柘榴天神]・絵 [柘榴天神]叡山法性坊、檜扇をもって坐す尊意と笏をもって坐す束帯姿の道真の霊が向き合っている。異時同図法的に、縁に立ち笏を持った右手を振り上げ振り向きざまに妻戸に炎を吹きかける道真、坐して灑水印を結ぶ尊意。延暦寺の堂宇、鐘楼が見える山頂付近では黒雲が渦巻き、稲光がきらめく。猿と鹿の群が立ち騒ぐ様も描かれている。「立ち身」で柘榴を吐く道真の霊は光信本、光起本、岩松宮本、道明寺天満宮扇面屏風本等には見られるものの類例の少ない図様である。第6段・詞 [清涼殿霹靂(時平抜刀)]・絵 [清涼殿霹靂(時平抜刀)]清涼殿を真ん中にして、右に風神、左に雷神。逃げ惑い暴風に飛ばされる公卿、女房。時平他公卿達が太刀を抜く。きわめて特異な場面である。風神は、赤身、嘴をもち、角はなく、手首に腕輪、白色の風袋を担ぎ、黒雲に乗って、朱色の稲光を発する。雷神は、青身、2本角、太鼓を背負い、豹の毛皮の腰巻、手首に腕輪を着け、両手に撥を持ち、火炎を吹き、黒雲に乗って、稲光を発する。鳥の嘴形の口をもつ風神は、菅生本の雷神の姿に近いといえるかもしれない。第7段・詞 [尊意渡水、尊意加持]
元のページ ../index.html#299