鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―24―ルドルフのノルトライン・ヴェストファーレン州立美術館に収まった(注30)。イラクサ布に油彩で描かれた本作品は、厚紙とさらに合板に貼られている。作品が購入されたときはこの合板パネルの裏が剥がされ、オリジナルの木枠はついていなかった。合板パネルから剥がされた裏面の絵〔図8〕の方は水彩とグワッシュで描かれ、オリジナルの木枠に釘で打ち付けられている。この木枠の裏側には「1926TnullReconstruction Klee」と記されている。この裏絵を、1958年にパリの画商ベルクグリューン経由で購入したノルウェーのコレクター、ロルフ・ステネルセンは、同年のストックホルムの展覧会に作品をさっそく貸し出した(注31)。そのカタログによると、本来、題名のないこの裏絵は《再構成》として公開されている(注32)。その後もオリジナルの木枠におさまった裏絵は、木枠の記載事項ゆえに「再構成」として誤って受容され続けてきた(注33)。現在、この作品はオスロのベルゲン美術館のステネルセン・コレクションに収まっている。このように「両面作品」の裏と表を切り離すという受容形態が提起するのは、「社会に流通する商品としての美術品」の価値を問う「経済的な」問題だけには留まらない。この作品もまた、表と裏の絵を別々のものとして切り離し「固定的に」解釈するのではなく、動的・有機的な関連から考察すべきではないだろうか。《再構成》では古代神殿の廃墟が、その裏絵では庭園が描写されている。両者の間には、整然とした秩序を解かれた人為的構築物のうちに生長を呼び起こす力が働いている、という内容的関連を認めることができる。それが表であれば光の中で無機物に対して、裏であれば闇の中で有機物に対して、というように対をなしながら裏と表は互いに注釈し合っているのである。7.デュッセルドルフ美術アカデミー(1931−1933):47点クレーは1931年4月より国立デュッセルドルフ美術アカデミーに着任し、ここでは色彩点描の技法を独自に展開させている。例えば1933年の水彩《調整された豊穣》〔図9〕は大小様々な筆のタッチでこのような色彩点描が描き分けられている。平筆による矩形の色面が規則的に並ぶ畝と筆先を使った細かな点描の畝がリズミカルに混在しており、それらは線描によって区分され、区画ごとに色が塗り分けられている。そうした行き届いた「調整」により多角的な「豊穣」が期待されるところだ。一方、裏面の絵〔図10〕も同じく水彩の点描技法で描かれているが、整然と並んだ色面にクレヨンの太線が介入することで、矩形の形や大きさはところどころ不規則になっているのが目を引く。それは特に四角の中と、そこから伸びた斜めの線の周辺に顕著に認

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