―484―事実として村野の作品が評価される時期になった。その一方で大阪そごう百貨店や出光興産の松寿荘のように時代の流れと共に姿を消していく建築も少なくない。むしろ後者が今後は増えていくであろう。村野を建築史論的に論じることは容易ではないが、事実に基づいてその建築や設計プロセスを記録し、学術的に位置づけて後世に引き継ぐことをこそ始めなければならない。2.村野藤吾の設計図面建築家の研究を行う場合、その建築設計図面は、極めて重要な意味を持つ。既に解体された建築については、写真と共にかつての姿を知る唯一の資料となる。当研究は、京都工芸繊維大学美術工芸資料館に収められた村野藤吾の設計図面に即して、その造形と形成過程を明らかにする研究の一部である。京都工芸繊維大学が所蔵する設計図面は村野、森建築設計事務所において阿倍野事務所の書庫などに長年保管されていたものがまとめて京都工芸繊維大学に寄託されたものである(注2)。村野藤吾の図面については、出版された図面集や、生誕100年記念村野藤吾展において紹介されてきたが、それらは、全体の1割にも満たない。事務所や倉庫に分割して保存されていた時代、村野図面の全貌は、通覧しがたいとされていた。これは、圧倒的な量であること、多くのものが筒に収められ、丸まった状態だったことによる。京都工芸繊維大学では竹内次男が中心となって図面の整理を順次行ってきた。図面整理は1995年、大学の教員、大学院生、学生による自主ゼミによって開始した。1998年、図面を読み解くには設計実務の経験が不可欠であるとの判断から学外の設計実務者を招聘して「村野藤吾の設計研究会」(初代委員長:西村征一郎教授)が設立された。研究会の委員も整理に参加すると共に、図面の解析を手はじめとした村野研究を開始した。年に一度、村野藤吾の設計図展を開催して、図面の一般公開を行うと同時に村野藤吾建築設計図展カタログ1〜7を発刊して、その成果を公開している。京都工芸繊維大学で所蔵する村野藤吾の設計図面は、2005年12月末現在で55123点が確認されている。未発表の作品や検討図を多く含んでいることが特徴である。主要作品に関する資料点数及び所蔵整理番号を京都工芸繊維大学美術工芸資料館所蔵主要作品設計図面リスト〔表1〕に示す。3.「美術建築」という言葉本研究は、建築家村野藤吾を美術という切り口から考察しようとするものである。建築家村野藤吾を美術史上に位置づけることは容易ではない。もとより、建築そのも
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