J.M.W. ターナーの絵画における空間表象―494―John Gage、ジェロルド・ジフJerrold Ziff、アンドリュー・ウィルトンAndrew WiltonI.初期の作品における場所と詩――その自然観とコスモロジーに関して――研 究 者:活水女子大学 健康生活学部 生活デザイン学科 助教授その風景を中心とした表象のテーマは「人間と自然の関係」であった。自然との強い一体観を求めるターナーの自然への態度は、言わば、一種の汎自然主義的なものであると考えられるターナーは、地誌的風景画、ピクチャレスクな風景画の影響から出発し、プッサン、クロード・ロランの古典的構成およびアルカディア的田園画など、同時代の多くの様式の影響を受けながらこれらの要素を統合し、ロマン主義的な風景、さらに表現的な色彩による独自の表現へ到達する。その空間表象、大気や光の表現は、古典的、キリスト教的、またバロック的な世界観とも異なるものであるが、その背景には、18世紀後半から19世紀イギリスのロマン主義において探究された世界観があることを看過できない。ターナーの世界観はこの時代的、精神的ミリューの中で育まれ、近代への過渡期に臨んで、独自なものへと形成されていったと考えられる。その風景のヴィジョンと自然観および世界観には、当時の詩が与えた影響が大きい。特にトムソンの詩に表わされた自然のダイナミックなヴィジョンは、ターナーに決定的な影響を与えた。これまで、ジャック・リンゼイJack Lindsay、ジョン・ゲイジ等の研究により、ターナーの絵画と詩との関係の重要性が指摘されてきた。本論考では、主にリンゼイの説に依拠し、ターナーの初期のスケッチ、習作とトムソンの詩がターナーのヴィジョンと自然観、世界観および宇宙観の形成に及ぼした影響について検証したい。ターナーの絵画に最後まで描かれるターナー的宇宙の表象は、既に初期の作品に現われる。ノーサンバーランド、ウェールズでのスケッチおよびこれらに基づく水彩画、油彩画に強く現われる初期のモチーフ、テーマは最晩年の1840年代に至るまで追求さ序J.M.W.ターナー(1775−1851)の絵画――特に風景を中心とした――には、独自の自然観、世界観が表現されている。ターナーは、生涯にわたり自然の事象を追い続け、津 田 礼 子
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