鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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1.ノーサンバーランドでの習作ターナーは1797年の夏、トゥイード川(スコットランドとイングランドの境の川)に沿ってベリックBerwickを経、ノーサンバーランドNorthumberlandへ行く。コケッ―495―Dunstanburgh Castle、バンバラ城Banburgh Castle、トゥイード川沿いのノラム城NorhamCastleなどの多くのスケッチ、水彩による習作を行い、これらをもとに水彩画、油彩flood」、「荒涼とした廃墟は光り輝くRude ruins glitter」、「塩辛いわだづみは、(略)浮Liber のための水彩画や海と空の習作Study of Sea and Skyを始め、晩年まで取り組まれている。また、それらのモチーフ、テーマと関連したカラー・スタディーは初期のノーサンバーランド、ウェールズにおいて始まり、その後のリトル・リーベルLittleれている。ト川沿いのウォークワース城Workworth Castle、東海岸に臨むダンスタンバラ城画を制作する(注1)。1798年には、《ダンスタンバラ城―驟雨の夜のあとの日の出Dunstanburgh Castle, N. E.Coast of Northumberland; Sun-Rise after a Squally Nigh,exh, R.A., 1798》〔図1〕を出品した(注2)。まっすぐに海へ突き出た岬にダンスタンバラ城の建つ壮大で荒涼とした景観は、ノーサンバーランドで最も変化のある光景の一つである。それがターナーがダンスタンバラ城を選んだ理由である(注3)。この絵にターナーはトムソンの『四季』(夏)から引用した詩句を付けた。「切り立つ断崖は、黒ずんだ流れに恐怖をぶつけるBreaking horror on the blacken’dめく光をせわしなく反射するRestless reflects a floating gleam」(注4)という表現には、トムソンが詩に取り入れたダイナミックな自然の事象――相争う新しいトムソン的「四大」the new Thomsonian elements(注5)――が描写されているが、ターナーはこのトムソンの詩のイメージを視覚化している。この絵はウィルソンの影響を残しているが、早くもターナー的なヴィジョンが現われている(注6)。1799年の《ウォークワース城、ノーサンバーランド――日没とともに近づいてくる雷雨》Workworth Castle, Northumberland――Thunderstorm approaching at Sunsetには『四季』(夏)からの引用を付ける(注7)1798年に《トゥイード川沿いのノラム城――夏の朝》Norham Castle on the Tweed,Summer’s Morn〔図2〕を王立美術院に出品し、これにもトムソンの『四季』(夏)から引用した詩を付けた。この時の詩的な源泉もトムソンであった。ノラム城のあるトきら遊する煌

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