―496―‘fluid gold’「流動する黄金色」の効果を表す方法を発見する。二番目の完成した水彩画である《ノラム城――日の出》Norham Castle, sunris(1798頃)ではこの効果を発展させる(注9)。ゥイード谷Tweed valleyはトムソンが親しく交わりその自然観と詩的イメージを育んだところであり、ターナーにとって重要な意味があった(注8)。ここでトムソンは寂寥として静謐な風景の中に建つ廃墟のノラム城の向こう側に昇る朝日を、力強い日中の王the powerful King of Dayと表現し、日の出の時の空の輝くような変化を歌っている。ターナーは1797〜8年に2点の《ノラム城》において光の効果を試すため、水彩による大がかりな最初のカラー・スタディーに着手した。トムソンの詩の「燃えるように輝く青空」‘kindling azure’の効果を試す〔図3〕。2点目のColour Study(TB L C.)で複雑なstopping-out の技法によりトムソンのノラム城は晩年の油彩による《ノラム城――日の出》Norham Castle, sunris(1845頃)に至るまで、幾度もターナーの作品の題材となったところである。2.ウェールズでの習作1792年の夏、初めてサウス・ウェールズSouth Wales、中部ウェールズCentral Walesへ、1795年の6月から7月には、サウス・ウェールズSouth Walesへの包括的な旅行をする。1798年の夏には初めてノース・ウェールズNorth Walesヘ、7週間をかけて国全体を回るというさらに野心的な旅行を行った。1799年の秋にはスノードニアSnowdoniaでの集中的研究・習作のために、再び、ノース・ウェールズへ行く(注10)。この1792年から1799年の間の5回に及ぶウェールズでの研究・習作は、ターナーの技術的な、また知的な成長のために劇的なインパクトを与えたという。特にノース・ウェールズでは彼はスノードニアの「崇高」な風景に熱中した。高く聳えるスノードニアの山々はターナーを鼓舞し、霊感を与え、彼ははるかに大きなスケールの習作に、より薄暗く崇高な色彩を用いて取り組んだ(注11)。ここでのスケッチとこれらに基づく水彩画および油彩画には、ターナーが地誌学的、またピクチャレスクな手法、クロード、プッサン風の様式を取り入れながらも、そこから脱し独自のヴィジョンを獲得していく過程が見出される〔図4―12〕。ここでターナーを感動させたのは、山々の完全に物理的な壮大さのみではなかった。ターナーが探し求め、見出したウェールズは、グレイThomas Gray、ギルピン
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