鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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た1799年のキルギャラン城――蒸し暑い日の始まりを告げる靄に包まれた日の出Kilgarran Castle on the Twyvey, Hazy Sunrise, previous to a Sultry Day〔図12〕にはっきりと表われているのである(注15)。ターナーはこの時、ウィルソンから離れ彼自身のヴィジョンを創造しつつあった。風景が回るような感じは、トムソンの詩のイメージが影響し―498―II. ターナー的ヴィジョンとトムソン的宇宙movementsが中心になっていることを指摘し、トムソンの『四季』から、いくつかのていることを示す。ターナーは18世紀の多くの詩を読み彼の絵画に生かしたが、特にトムソンの詩のイメージはターナーのヴィジョンの源泉であった。1.一日の変化、自然の顔トムソンの自然の描写において際立ったものは、「一日と一年の変化」であった。トムソンとトムソンに倣った同時代の詩人たちにとって、「朝、昼、夕方、夜および四季」の描写が一般的なこととなったという(注16)。リンゼイはマレットMalletの『旅行』Excursionの目次を例に挙げているが、そこには日の出、朝、昼、雷雨を伴う夕べ、夜といった異なる情景における自然の顔theface of Natureの描写が含まれている(注17)。ターナーが王立美術院に出品し、ミルトン、トムソンの『四季』から詩の引用を付けた5点の内、2節は夜明けdawn、3節が夕方または日没evening or sunsetを主題としたものであるが(注18)、それはトムソンの詩に描写された自然の相であった。この主題はターナーによって最後まで追求された。2.円環的構図と渦巻形のヴィジョンターナーが渦巻形の構図vortex systemを用いるようになるのは、プッサンとクロード・ロランの古典的フォルムを研究し尽くし、長いあいだ模索した後であるが(注19)、彼はトムソンの詩からそのヴィジョンを得ている。リンゼイは、トムソン的宇宙においては、回転運動revolving, wheeling, circling代表的詩句を挙げる。「回転する歳月は移ろいゆく大地を震わす」revolving ages shake the changeful earth(注20)、「回転する色の震動」A trembling variance of revolving hues、「〔牛は〕回る水面に口をつける」[Cattle] sip the circling surface、「回る空、広大で万物に生気を与える

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