鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―499―new Thomsonian elementsが見られるという。リンゼイの説明を要約する。大気」The circling sky, the wide enlivening air、「ぐるぐると回りながら次第に濃さを増してゆく夕暮れの影があたりを包み、一日の顔を隠す」[Evening shade] a deeper still,in circle following circle, gathers round to close the face of day(注21)など。トムソン的宇宙の回転運動はエイケンサイドの詩にも見られる。原子の踊り(「四大が回る中で」)the dance of atoms (‘in elemental round’)(注22)。エイケンサイドは霊感の湧く瞬間について書いている。天の光の輝かしい奔流がほの仄暗い空無the shadowy voidにさっと射し込む。ゆっくりと紫色の雲が空から降りて来、回転する樹木の中でついに止まった。やがて雲は明るい円の隙間lucid orbを大きく開き、そこから超人的な顔(「神の顔」の意)がはっきりと目の前に現われ頭上に大きく迫った。ただちに雷鳴が森を震わせ、森はそれに応えた(注23)。円環的効果circling effectsの強調は既にバロック、ロココの様式において現われるが、十八世紀後半にはさらに回転運動が加わる。明暗法の「トンネルと核は回転する傾向がある」と考えられた(注24)。また、自然現象は螺旋と迷路のパターンに従って起こるという考えは、十八世紀では稀ではなかった(注25)。3.相鬩ぎ合う四大elementsターナーは最初はピクチャレスクのいくつかの特徴を取り入れながら風景の表現を発展させていったが、1809年までにはその傾向とは完全に無縁になっていた。このころには、風と水に最もよく表われている「動くフォルム」への関心が高まり、「相鬩ぐ四大」は彼の最大の関心事となった(注26)。このダイナミックな要素は、ターナーがトムソンの詩からそのイメージを得たものであった。Iで述べたように、《ダンスタンバラ城》に付けた詩には新しいトムソンの四大the自然の個々の事象は絶えず動き、変化し、激しくぶつかり合ったり調和したりと、相互にダイナミックに関連し合いながら、統一のとれた情景を生み出している。こ

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