―522―『山門記』は全て比叡山延暦寺の寺誌史料であるものの、違う内容をもつ史料である。『近江州滋賀郡坂本神社佛閣記』が記されている。今回はこれら延暦寺寺誌史料について、特に比叡山山内に現存している各写本を中心に調査を行い、寺誌史料には異名同文もしくは同名異文の写本が実に多数存在し、タイトルのみでは中身の文は知りえないということと、異名同文の資料の中には今まで知られているものよりも古い写本が一部存在することを発見することが出来た。以下その一部を報告すると、まず、『山門記』をみてみると、「山門」つまり比叡山延暦寺の記録という名前自体が普通名詞的性格の強いものであるために、同名異文の史料が極めて多く現存している。叡山文庫(以下、県名を記さないものは叡山文庫蔵)に伝来しているだけでも、①『山門記』(無動寺蔵 内典36−35−1079)本住沙門咸潤書享保元年写 翻刻なし。②『山門記(応永年中編集)』(別当代蔵 叡諸15)応永28年成立か 俊清書 享保19年写 翻刻なし。③『山門記』(覚恩和尚記)翻刻:『天台宗全書 第24巻』、④『山門記』(首楞厳院記家)江戸時代写(別当代蔵 叡諸16)翻刻なし、⑤『山門記』(岡本蔵 内典9−1)翻刻なし、などがあり、これら五つのこのうち、⑤などは3巻からなり、内容をみると上中巻に『叡山佛閣記』、下巻にそしてこの『叡山佛閣記』は、同名の資料が伝わっていて(叡山文庫 無動寺蔵35−01−1024)、同じく上下2巻からなる。内容は、上巻に比叡山山上の諸堂について、下巻のほうに日吉社を中心とした山麓の寺社について記す史料である。この本は他に、①『山門堂舎記』(無動寺蔵 内典35−05−1029)元禄16年(1703)写、②『山門堂舎記』(生源寺蔵 内典9−42−1141)等の写本があった。さらに下巻の方も、①『山王神社記』(池田蔵 外典1−9−1987、内題「近州滋賀郡坂本神社仏閣記」)や②『比叡山坂本神社仏閣』(止観院蔵 日吉493、内題「近州滋賀郡坂本神社仏閣記」)と、それぞれ写本が伝存している。さて、ここで出てきた異名同文写本である『山門堂舎記』というのは、大変複雑なことではあるが、翻刻などで一般的に知られる『山門堂舎記(山門堂舎)』とは違う記述の史料である。つまり、『山門堂舎記』と題する史料には内容が2種類あることが分かる。さらにこの『山門堂舎記(山門堂舎)』の方についても異名同文の写本があり、極めて複雑である。『山門堂舎記(山門堂舎)』の写本としては、①『山門堂舎記』(真如蔵 内典12−9−1683)、②『山門諸堂縁起』(天海蔵 外典17−33)、③『叡嶽堂社記 首楞厳院記家』(別当代文書 叡諸17)④『山門堂舎』(池田 内典9−215−1749)⑤『山門堂社記』東京・静嘉堂文庫蔵(87−44)などが確認でき、その他『昭和現存天台宗書籍目
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