鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―523―録』にある延暦寺蓮華院蔵『叡岳堂舎記』などもこの写本にあたると思われる。翻刻本である『群書類従』本がいったいどのような写本を底本としているのかは不明であるが、中世まで遡る写本は今のところ見当たらない。次に、同文写本でありながら異名の多い『阿娑縛抄』所収「諸寺略記(諸寺縁起とも)」についても紹介を行いたい。これについては、別の機会に紹介を行ったため、簡略に記すと『阿娑縛抄』の200、201巻目にあたる「諸寺縁起」の下巻が延暦寺諸堂の縁起であり、現在知られるだけで、①a.『阿娑縛抄』「諸寺縁起」b.『阿娑縛抄』「諸寺略記」c.『阿娑縛抄』「諸堂記」、②『三院記』『延暦寺三院記』、三千院円融蔵本(円融蔵 第一箱 領 山門記 16)、叡山文庫・実蔵坊真如蔵本(真如蔵 内典12−32−1604)、③『延暦寺三塔諸堂』叡山文庫・延暦寺本(延暦寺 内典9−20−582)元応元年(1319)写、妙法院本(A)室町時代写、妙法院本(B)万治二年(1659)写、④『三塔諸寺縁起』、『続群書類従』(27下)、『大日本佛教全書』(120寺誌4)、⑤『山門三院記録』、国立歴史民俗博物館本(『田中穣氏旧蔵典籍古文書』150)⑥『比叡山諸寺類』、冨田仙助本(東京大学史料編纂所謄写本)などの6つの名前の写本がある。この中でも、④については、『阿娑縛抄』と気づかれずに翻刻されており、注意が必要である。なお、③『延暦寺三塔諸堂』の延暦寺本は鎌倉時代の写本で、『阿娑縛抄』としては江戸時代の写本しか知られていない現在、貴重な資料ということができる。以上のように、延暦寺の寺誌史料は、史料名だけでその記事を想像することは不可能で、記事内容を一つ一つ照合していかなければ、その本がどのような史料であるかをいう事はできない。現状としては、我々美術史研究者が一般に利用している翻刻本が必ずしも良質の古写本を翻刻したものではないわけで、利用にあたっては注意が必要になろう。今回調査したものは、現存資料のほんの一端にすぎず、今後はさらなる各史料の実態調査と内容の整理の進捗が望まれる。3.山王曼荼羅の調査と分類について比叡山の護法神である日吉社に関係の深い山王曼荼羅は、春日曼荼羅や熊野曼荼羅と並ぶ垂迹画の中心となるものである。しかしながら春日や熊野に比べて研究が進んでいるとは言いがたく、また作例の実態把握もなされていないのが現状である。今回はこの山王曼荼羅について現存作例を探索し、その形式についての分類を行った。山王曼荼羅の伝来形式としては、Ⅰ.比叡山延暦寺山内における需要として各諸堂や各里坊などに伝来、Ⅱ.天台寺院に伝来(法会などの使用のため)、そしてⅢ.比

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