―524―(くにん)などの個人や、住民で構成する講(山王講や礼拝講など)、集会所そして日叡山麓の坂本地域の特殊な信仰に関るものとして、坂本、下阪本地区の旧延暦寺公人吉大社や末社などに伝来、Ⅳ.その他、博物館、美術館や各個人蔵などがあげられる。このうちⅠについては、重要な作例については既に一部紹介されているが、他に少なくとも20〜30件は存在すると思われれ、全体を把握するにはまだ至っていない。Ⅱは、全国の教育委員会や博物館が実施している調査により徐々に作例が報告されてきている。Ⅲについては、かなり特殊な地域のため調査が困難であり、ほとんど実態は不明である。しかしながら、Ⅲだけでも100件は下らない数の山王曼荼羅があるという話もあり、実態の解明が期待されるところである。実際の現存状況として、従来、山王曼荼羅の現存作品は30件ほどと考えられていたが(注2)、今時点で筆者が把握している近世までの作例として、実際調査を行ったものが59件、未調査で写真を入手しているものもが62件、存在のみ把握しているものが約30件と、合計150件ほど確認できた。山王曼荼羅は、大きく①宮曼荼羅、②本地仏曼荼羅、③垂迹神曼荼羅、④その他特殊な形式、などに分類されている。①は、日吉社の風景に社殿を描くもので、各社殿を正面に描く大和文華館本(重文)と、八王子山を中心に山上と麓の社殿を俯瞰的に描く奈良国立博物館本(重文)がその代表とされる。この奈良博本のほぼ写しと思われるものに、滋賀院本、延暦寺理性院本、大津市坂本個人蔵本、京都・勝持寺本、岐阜・善学院本などがある。また、同じような図柄を持つものに、秘密社参曼荼羅(日吉大社蔵)と山王社頭図(延暦寺蔵)などが知られ、中世以降に行われた日吉社境内を社参する「秘密社参」に関連の深いものであることが分かる。現存作例数は少ない。②の本地仏曼荼羅は、17例ほど知られる。数はそれほど多くはないものの、古い例が多く見られる。描かれている尊像の数として、上七社の7尊と早尾(不動)、大行事(毘沙門天)を加えた9尊に、1、2尊加えたものが多い。これは、『山王秘法』(三千院円融蔵第五箱「行用48)の根本印を記すところでも、上七社に早尾と大行事を記していることから、これら9尊が古くから重要視されていたことが分かる。さて、これら上七社である7尊の配置には2つのタイプがみうけられる。まず、大宮(釈迦如来)を中心に、その上部に八王子(千手観音)、下部に十禅師(地蔵菩薩)を、そして、左右に2尊それぞれ配置するタイプである(Aタイプ、縦3体タイプ)。つまり、見た目には中央縦に3体並ぶものである。このタイプでは、上部の3体が菩薩、最下部の地蔵を抜かした下部3体が如来となり、尊像配置として均整の取れた配
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