―525―置となる。滋賀・延暦寺本(重文・旧芦浦観音寺伝来)を始めとして、東京国立博物館本、茨城・千妙寺本(筑西市指定)、京都・當道会A本などがこれにあたる。これとタイプは同じであるが、尊像の配置が違うのが、滋賀・延暦寺本(県指定)である(A変形タイプ)。これは、薬師如来を中心に置き、上部に釈迦如来、下部に地蔵菩薩、そして向かって左の上部に普賢菩薩、下部に十一面観音、向かって右の上部に千手観音、下部に阿弥陀如来を配する。これは、釈迦を頂点として左下の十一面と右下の阿弥陀の三点により正三角形に西本宮系の本地仏を配し、残りの東本宮系本地仏は薬師(二宮)を中心としたY字を構成することとなる。さらにこのY字の上部2体は普賢と千手を配しているが、これは八王子山山上に所在する三宮と八王子社に相当するのであり、日吉本来の神である二宮を中心としながらも、外来神である大宮を最も上位に置き、さらに実際に八王子山山上にある二つの社殿を上部横に配しているわけで、内容とバランス的にはかなり整った形といえる。次に、大宮(釈迦)を中心に右に二宮(釈迦)、左に聖真子(阿弥陀)の如来を3体横に並べ、上下に2体ずつ菩薩を配するタイプがある(Bタイプ、横3体タイプ)。上部の2尊は右に三宮(普賢)、左に八王子(千手観音)と、実際の八王子山山上に配置されているものと同じ形で配されているが、下部の2尊の配し方には2種類あり、右に客人(十一面観音)、左に十禅師(地蔵)を配するタイプ(B−1タイプ)と、その逆タイプ(B−2タイプ)とに分かれる。これは、B−1タイプの方は、右側の上下菩薩が、千手観音と十一面観音であり、左側が普賢と地蔵であるから、右側に「観音」をそろえた形となり、本地仏を配した時の見た目で選定されたと考えられる。一方のB−2タイプは、聖真子(阿弥陀)の下に客人(十一面観音)がくることとなり、左側に西本宮の神を集めた形と言え、奉られる神の内容を重視したものと言えそうである。つまり、本地仏重視か垂迹神重視かということである。現存作例として、B−1タイプは、滋賀・聖衆来迎寺本、愛知・法海寺本(知多市指定)、大津市坂本個人蔵本などが、B−2タイプは、滋賀・西教寺實成坊本、和歌山長保寺A本、滋賀・市神神社C本などがある。これらBタイプの山王曼荼羅の特徴としては、中心となる大宮(釈迦)の前に「供物台」を置くことができるということである。Aタイプでは、大宮(釈迦)の前(つまり下)に十禅師(地蔵)がくるため、供物台はさらにその下に置かなければならず、どちらかというと本地仏全体に奉げるようにみえるが、Bタイプでは下段が2尊であるため、その間に供物台を挟む形となり、大宮そのものに奉げられるようになる。つまり、どちらかというと曼荼羅形式のAタイプよりも、如来三尊が並びその本尊とも
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