鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―575―in Asia and Europe(アジアにおけるオランダ美術の需要と、ヨーロッパ・アジアの視(江戸時代におけるオランダと日本の文化交流)それぞれの発表は、ヨーロッパの生活に入り込んだインド綿がいかにしてヨーロッパのファッション・システムの勃興に貢献したか(レミール)、インド綿の輸入禁止はどのようにイギリスの織物産業の興隆を促したか(オーモンド)、ビアゾル石というアジア伝来の輝石がヨーロッパ市場にどのように入り込み、富裕な人々を惑わせたか(ボルシュバーグ)、インドに滞在したヨーロッパ人家族の財産目録はどのような欧印の関係を語るか(クリーガー)、江戸の日本にもたらされた西洋地図は日本人にどのように受容され、ひるがえってそれはオランダの絵画にどのような展開をもたらしたのか(モチヅキ)、江戸時代に製作された踏み絵は文化の転移と言えるのか、それとも文化転移の不可能性を示すものなのか(カウフマン)、西洋伝来の幾何学的遠近法の日本における咀嚼、19世紀ヨーロッパにおける日本美術の受容は、異文化の受け入れ・転移が単に他者との接触による変化に終わる物ではなく、やがては自己発見につながるプロセスに他ならないのではないか(小林)といった論点を、各自の専門領域を生かしながら提出するものでした。アジアとヨーロッパ。移動の方向がどちらを向いているにせよ、複数の文化の出会いは、Influenceという言葉では語りつくせない入り組んだ現象である、との考えで参加者全員の意見が一致しました。なお、各発表者は、与えられた持ち時間1分の範囲内で、本年1月にノース教授に提出した現行のダイジェストを口頭で発表しました。本年末あるいは来年初頭には、完全原稿を収録したラウンド・テーブル19のプロシーディングが刊行の予定です。また、セッション終了後の話し合いで、メンバーのうち7人がテーマとした「オランダ」を軸足にして共同研究を発足させ、今回のセッションを継続発展させることになりました。17−18世紀に東インド会社を拠点として、蛸足のようにアジア諸国との公益を展開したオランダは、ヨーロッパ・アジアの文化転移を考える際の最も興味深いポイントであり、各国研究者がそれぞれの立場から問題を持ち寄ることで、これまでにない展望を見出せるのではないかと考えたからです。そこで、来年初頭を目途に、しかるべき機関にThe Reception of Netherlandish Art in Asia and its Impacts on Visual Cultures覚文化に及ぼしたその効果)というテーマで共同研究の助成を申請する予定です。今回の会議では、自分が参加したラウンド・テーブル19以外にも、ユネスコ主催のセッション『諸文化間の対話―明日を担う歴史家とは』、サブ・テーマ8『伝統の近

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