―51―(以下、専修大学本)と安城市歴博本の図様の共通性を指摘したうえで、新出の絵巻である個人蔵本を、安城市歴博本、中之島本と比較してゆく(注8)。これによって、これまで稿者が提示した諸本の系統のなかに、この新出の絵巻を位置づけたい。2.「大蛇出現、天稚彦に姿を変える」の絵画化まず短文系と長文系テクストの異同を確認する。短文系テクストとして専修大学本第三段の詞書(注9)を、長文系テクストとして安城市歴博本上巻第四段末尾・第五段冒頭部の詞書(注10)と、個人蔵本上巻第四段終結部(注11)を掲示する[資料1]。まず、短文系では、大蛇に嫁ぐ決意をした娘は、池の前の釣殿に置き去りにされる。すると、池から大蛇があらわれ、娘がつめきり刀で大蛇の頭を割ると、天稚彦という貴公子が姿をあらわし、2人は仲睦まじく暮らす。長文系では、和歌を付加するなど、短文系の文章に潤色を加えている。また、大蛇は「池」ではなく「河」から出現し、「つめきり刀」ではなく「守り刀」で大蛇の頭をきるなどの、異同がみられる。画面を検討するまえに、ここで指摘しておきたいのは同じ長文系テクストでありながら安城市歴博本と個人蔵本では、絵の挿入箇所が異なっていることである。まず安城市歴博本では第四段末尾の傍線部①において、人身御供となる決断を下した娘が釣殿に置き去りにされるということが語られている。この傍線部①のあとに〔図1〕が挿入されているが、この図は、つづく第五段冒頭部の傍線部②③、すなわち、娘の前に河の中から十丈の大きさの蛇があらわれ、その頭を守り刀できると、天稚彦が姿をあらわすという内容に対応するものである(注12)。一方、個人蔵本の第四段終結部では、娘は釣殿に置き去りにされ(傍線部①)、娘の前へ十丈の大きさの蛇が川からあらわれ、大蛇の頭をまもり刀できると、天稚彦が姿をあらわす(傍線部②③)という内容が、続けて記されている。そして、そのあとにこれに対応する〔図2〕が挿入されており、個人蔵本の方が、安城市歴博本よりも詞書内容に符合した位置に絵が挿入されていることがわかる。この挿入位置は中之島本も同じである。また、安城市歴博本の第四段末尾の詞書には5首の和歌が記されているが(傍線部i〜v)、個人蔵本では、そのうちの傍線部i のみであり、中之島本及び以後の冊子本諸本でも同様である。このように、個人蔵本にみられる絵の挿入箇所、和歌の数などは、個人蔵本が安城市歴博本よりも、後続に位置する可能性を示している。では図様ではどうだろうか。短文系の詞書をもつサントリー本〔図3〕と専修大学
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