鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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■「天稚彦草子」には稿者が確認し得たかぎりでは、18本が現存する。そのほとんどが絵巻、あるいは絵入り冊子本といった絵画作品でもある。こうした絵画作品群のうち、ベルリン東洋美術館所蔵の絵巻「天稚彦草紙」は15世紀の奥書をもち、現存最古であることがみとめられているが、そのほかはいずれも奥書がなく、制作時期は莫然と江戸時代前期と推定されているにすぎない。18本のうち15本の書誌データは、拙稿「『天稚彦草子』長文系テクスト絵画化における図様の展開過程」(『奈良絵本・絵巻研究』1、2003年)の【表1「天稚彦草子」現存写本一覧】を参照されたい。なお、その後確認し得た作品の書誌データは次のとおりである。個人蔵「天稚彦草子絵屏風」屏風、6曲1隻、紙本著色、縦81.3糎×横303.4糎個人蔵「天稚彦草子絵巻」2巻、紙本著色、上巻縦32.2糎×横1821.7糎、下巻縦32.6糎×横1409.5糎、長文系国立国会図書館蔵「七夕の由来(内題 牽牛由来記)」1冊、紙本謄写印刷、縦24.2糎×横16.8糎、長文系■拙稿「『天稚彦草子』絵画化の展開過程―赤木文庫旧蔵本を中心に―」(『美術史研究』39、2001年)。なお、安城市歴史博本は長年の古書店所有を経て、安城市歴史博物館の所蔵となり、昨年調査をおこなうことができた。■注■前掲論考。■稿者は、注■前掲論考の【表2テクスト概要比較】において短文系テクストと長文系テクストの内容を、絵画化された場面にもとづいて24の章に分け、各章の概要をまとめた。長文系テクストには、短文系テクストにはみられない章があり、また両テクストに共通する章においても、その内容に異同がある。各章の内容については、この表を参照されたい。■本稿において比較検討する作品の書誌データを掲示する。個人蔵本上巻第四段終結部(川上綾奈「『天稚彦草子』に見るジェンダー」『おそつろんさうし』稿者が実見したところ、安城市歴博本では、詞第四段は第10紙後半から第11紙前半にかけて記され、これにつづく第11紙後半に絵第四段〔図1〕が描かれており、当該箇所に錯簡はみとめられない。専修大学本第四段(注前掲書、9頁)。安城市歴博本上巻第五段(注前掲書、497〜498頁)。サントリー本と専修大学本にみられる画面向かって左に屋内、右に昇天という配置は安城市歴―56―専修大学本第三段(専修大学図書館古典籍影印叢刊『七夕のさうし』、専修大学出版局、1988安城市歴博本上巻第四段末尾・第五段冒頭部(横山重編『室町時代物語大成』巻8、角川書店、1980年、496〜497頁)。サントリー美術館蔵「天稚彦物語絵巻」2巻、紙本著色、上巻縦31.1糎×横774.1糎、下巻縦31.1糎×横613.7糎、短文系専修大学図書館蔵「七夕のさうし」1巻、紙本著色、縦34.3糎×横2119.3糎、短文系安城市歴史博物館蔵「七夕之本地絵巻」2巻、紙本著色、上巻縦32.5糎×横1499.3糎、下巻縦32.5糎×横1534.4糎、長文系個人蔵「天稚彦草子絵巻」2巻、紙本著色、上巻縦32.2糎×横1821.7糎、下巻縦32.6糎×横1409.5糎、長文系大阪府立中之島図書館蔵「七夕」3冊、紙本著色、縦30.0糎×横22.2糎、長文系年、7〜8頁)。巻5、2004年、「翻刻」5頁)。

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