鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
71/589

/琉球王国漆芸技法復元の実証的研究―61―――琉球漆器の美はどのようにして作られたか――研 究 者:浦添市教育委員会1 はじめに「琉球王朝の華」といわれる琉球漆器は、琉球王国を代表する美術工芸品である。王府は、皇帝や将軍家そして島津家などへ進上する外交道具としての漆器製作に力を師(塗師)たちを集めて1日1寸角のノルマで塗り仕事をさせていたという。鮮やかな朱漆と虹色に輝く螺鈿文様を眺めていると、ゆったりとした時間のなかで、貝摺師たちがじっくりと精魂込めて漆器を製作している情景が目に浮かぶようだ。しかし、このイメージは必ずしも実証的根拠にもとづいてはいない。断片的な史料と伝承、そして思い込みも入っている。琉球王府の漆器製作を解明する上での第一級史料が、貝摺奉行所が19世紀に作成し」という業務文書である。本文書の研究(注1・2・3・4)で浮かび上がってきた王府の漆器製作の実態は、これまでのイメージを覆すものであった。官営工房はなく、貝摺奉行所の役人が、漆器1点ごとの製作経費を緻密に積算したうえで民間工房に製作を請け負わせていたのである。そのために王府御用の漆器は、サイズ・色・文様などが著しく規格化されていた。また、民間工房では、受注した漆器を納期に間に合わせるために25夜連続で夜仕事を続けることもあった。「御道具図并入目料帳」には、漆器製作に要した全ての材料と数量が実に事細かく記載されている。本研究は、この数量を分析して琉球王国時代の漆器が技法レベルでどのように製作されていたかを実証的に解明し、その技法による製作実験を通して検証してみようというものである。しかし、この文書に書かれた漆器製作材料の数量があまりにも狂いがないので、果たして実際の作業をどの程度反映しているのか疑問点も多いという指摘もある(注5)。本研究は、こうした疑問にたいして同文書がどのていど信頼性があるかを検証する作業でもある。なお、本研究は鹿島美術財団の平成15年度「美術に関する調査研究」助成金を受けて実施したものである。おどうぐずならびにいりめりょうちょうた「御道具図并入目料帳安 里   進かい入れていた。素晴らしい漆器を製作するために、貝ずり摺奉行所という官営工房に、貝摺

元のページ  ../index.html#71

このブックを見る