鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―63―師を指揮する絵師主取、そして下代など合計17人の職員体制であった。ただし、彼らが王府御用の漆器製作の全業務を担当したのではない。「御道具図并入目料帳」の分析から、王府御用漆器の製作には少なくとも6つの部署が業務連携していたことがわかる。白木(木地)の調達では、指物は普請奉行所、曲物は小細工奉行所、挽物は貝摺奉行所というように分担が決まっていた。また、漆器の部品は、金具は鍛冶奉行所が、焼き物は瓦奉行所がそれぞれ準備した。貝摺奉行所は主に塗りを担当した。塗りが終わると、漆器は白木を調達した各奉行所へ引き渡され、島津家へ座は、薩摩藩への上納物を所管する部署である。「御道具図并入目料帳」は、貝摺奉行所が塗り業務の実施に際して作成した業務文書である。明治20年頃まで多数保管されていたが、現在では、道光7年(1827)、道光9年(1829)、同治9年(1870)に島津家に進上した漆器製作に関する3冊の「御道具図并入目料帳」(注11・12)と天理大学図書館所蔵とされる文書が確認されているだけだ。本稿で分析する京都大学図書館所蔵の「御道具図并入目料帳」には、それぞれ琉球史料第23冊(道光9年)、第24冊(同治9年)、第25冊(道光7年)という簿冊番号が付けられている。本稿で用いる「2304朱塗沈金御花台」などの数字は、第23冊の10番目の漆器という意味である。表紙には、製作した年月と「大和江御進物道具図并入目料帳」などの表題がつけられている。内容は次のように定型化されている。①業務の仕様──製作漆器ごとに製作目的、漆器の名称・点数・各部寸法・塗り技法、梱包・運搬の有無と引き渡し先などの業務内容を具体的に記載する。②製作に必要な材料費や人件費などの積算──業務仕様に指示された塗りや運搬に要する全ての材料の数量と貝摺師などの仕事量を計算して、これをもとに製作に要する経費を積算する。③共通諸経費──事務経費などを実績に応じて計上する。文書の大部分は、各漆器の塗りに使用した全ての材料名とその数量の記載の羅列だが、これが詳細に記されている。例えば2305朱塗沈金御花台の製作では、使用した壱度越漆(1回漉し漆)の量が14匁9分1リと計算されている。1匁(3.75g)の100分の1の単位で計算された数値である。塗り各工程の上貝摺師の仕事量を合計すると17人5分1リになる。これは17.51日分の仕事量だから1/100日単位で計算された仕事量である。つまり、実際に要した数量ではなく設計上の数値である。各部寸法から漆器の塗り面積を計算して、これに定められた「歩掛り」を掛けて求めている。塗りしのぼせざの進上品の場合は梱包されて那覇港の近くにあった仕上世座に引き渡された。仕上世

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