鹿島美術研究 年報第23号別冊(2006)
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―65―〔図2下〕。「御道具図并入目料帳」のa漆工程を復元する上で参考になるのが、農商務省工業試験所技師の三山喜三郎が明治39年頃に行った「琉球漆器調査報告」(注13)である。表2は、三山の報告から作成した朱漆のa漆工程表である。「御道具図并入目料帳」とほぼ同じで、刻苧掻→布着→三回下地→中塗り→上塗りという工程になっている。当時はすでに経費が安い豚血下地が主流であったが、瓦地粉もまだ使われていた。さて、三山の報告をふまえると「御道具図并入目料帳」のa漆工程は次のように復元できる(数量は表1参照)。こくそ詰拾地:1回漉しの壱度越漆に麦之粉と拵瓦地之粉を混ぜて刻芋掻を行う。古苧物(苧の古布)を刻苧に混ぜたかはわからない。布着:麦漆で八重山拾七升白細上布などを布着せする。きめの細かい上質の布を使う。三辺地:壱度越漆に拵瓦地之粉を混ぜた下地をヘラ付けし、砥石を小さく割った砥割で研ぐ作業を三回繰り返す。最後に壱度越漆に菜種油を混ぜて摺漆を行い、これを研いだ後に壱度越漆を摺り込む。真塗下地:良質の四度越漆を摺り込む。真塗・朱塗:朱漆または良質の八度越漆で上塗りしてa漆を終える。こくそ詰拾地と三辺地の検証次に「御道具図并入目料帳」のa漆技法の使用材料数量を検証してみたい。先にものべたが、同文書の使用数量は、定められた単位面積当りの歩掛りで計算されている。ここでは、100坪当り数量がa漆技法として妥当かどうかという問題である。特に、こくそ詰拾地と三辺地の各材料の割合が刻苧と下地付けとして妥当かがポイントになる。表3は共同研究者の糸数政次氏による刻苧と三辺地の予備的実験結果の数値である。壱度越漆の下地用漆(中国産)で、四度越漆は黒呂色漆(中国産)でそれぞれ代用した。拵瓦地之粉は島瓦(赤瓦)を粉砕し80〜100#でフルイにかけたものを使用ちとぅんびゃんさいは極細麻布を代用し、麦之粉は薄力粉を使用した。「御道具図并入目した。b桐板斎料帳」の100坪当り数量はgに換算してある。重量は1匁=3.75gで換算し、拵瓦地之粉と麦之粉の容積量は、瓦地之粉と薄力粉の比重を測定してこれから重量を求めた。実験結果は、こくそ詰拾地では、材料の割合を変えた3種類の刻苧を作って比較した。実験Cが刻苧として適量で、「御道具図并入目料帳」はこれに近い数値である。

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