鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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フリードリヒ《四季》連作―94―――画家の世界観からの検討――研 究 者:早稲田大学 第二文学部 助手早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程  落 合 桃 子19世紀初頭のドイツでは、四季や1日の4つの時を主題とした絵画作品が数多く制作された。ドイツ・ロマン派の画家として知られるフリードリヒ(Caspar DavidFriedrich, 1774−1840)もまた、生涯にわたって四季図の連作に取り組んでいる。現在ハンブルク美術館に、四季を含む7枚からなるフリードリヒによる連作が所蔵されている〔図1−7〕(注1)。大きさはいずれも縦19cm、横27cm前後、紙に褐色インク(セピア)、鉛筆で描かれている(注2)。1826年夏にドレスデンの美術アカデミー展に出品され、いくつかの展覧会評が残されている(注3)。彫刻家のダヴィッド・ダンジェは同連作の一部を1834年に画家のアトリエで見たと記している(注4)。1840年に画家が亡くなるまで彼の手元にあったと思われ、1916年に画家の孫にあたるハーラルト・フリードリヒからハンブルク美術館によって購入され、今日にいたる(注5)。制作年代については諸説あったが(注6)、近年では1826年頃とするのが定説となっており、本稿もこれに従う。またカタログ・レゾネは本連作を《1日の時、四季、人生の諸段階の連作》と題しているが、本稿では略して《四季》連作と呼び、個々の作品タイトルはカタログ・レゾネにならうことにする(注7)。本連作について、プラッテは自然の中に神的な法則を読み取るというロマン派的な心情から解釈した(注8)。メルカーは歴史的発展という観点から論じ(注9)、ラウトマンは19世紀前半の市民階級をめぐる社会的状況から詳細に検討を行った(注10)。またミッチェルは地球構造学の影響を指摘している(注11)。こうしたさまざまな解釈がなされてきたのは、本連作が4つの季節の描写にとどまらず、広義には画家を取り巻く世界の表象となっているためではないか。そこで本稿では、従来の研究を踏まえ、連作全体の構成や描き込まれた人物像、19世紀前半の政治的状況を手掛かりにして、本連作が画家の世界観を表すものであることを明らかにする。1《四季》連作の成立と「7」の意味1826年頃の連作は、地球の生成を思わせる海の場面《夜明けの海》〔図1〕から始まる。《春》〔図2〕では春の野原で2人の子どもが戯れ、《夏》〔図3〕では葉の茂序

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