鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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―96―2 人間の一生と世界把握1803年の連作では《春》〔図8〕に数人の子供たち、《夏》〔図9〕に若い男女、《冬》〔図11〕に1人の老人が描かれるのみであったが、1826年頃の連作では、《夜明けの海》に続く6枚に一組の男女の一生が描かれ、人物が連作全体を貫くモチーフとなる。同時代の画家シンケルも1日の4つの時を主題とした対幅や連作を制作しているが、人物がこのように描かれることはなかった(注20)。前節で見てきたように7枚からなる本連作が「世界」を表すとすれば、この人物は何を意味しているのであろうか。そこで本節では、四季図として当時よく知られていた、ルーヴル美術館所蔵のプッサンによる《四季》連作〔図14−17〕を取り上げ、比較検討を行う。本連作は当時のイコノグラフィ辞典でもしばしば言及されており(注21)、広く知られていたものであるが(注22)、フリードリヒの連作との関係については、ラウトマンが触れているにすぎない(注23)。プッサンの連作では各場面に、アダムとエヴァ〔図14〕、ルツとボアズの物語〔図15〕、カナンの土地からもたらされた葡萄〔図16〕、大洪水〔図17〕という、旧約聖書の物語が描かれている。ザウアーレンダーによれば、本連作は人類の救済の寓意であると言う。《春》〔図14〕は救済の歴史の始まり、《夏》〔図15〕は聖餐による秘蹟教会、《秋》〔図16〕に描かれた巨大な葡萄の房はキリストの福音の成就を意味し、《冬》〔図17〕は最後の審判とみなされる(注24)。ここでは四季という時間の流れに、人類の創造から大洪水に至る、旧約聖書による人類の救済の歴史が描き込まれているのである。人物が大人の姿であることも注目しておきたい。一方、フリードリヒの連作では、《春》〔図2〕に2人の子供、《夏》〔図3〕には手を取り合う若い男女、《秋》〔図4〕には兵士と婦人、《冬》〔図5〕には老年期の男女が描かれ、四季に幼年期から老年期に至る、人間の一生が描き込まれている。さらに1826年頃の連作では、《洞窟の骸骨》〔図6〕と《礼拝する天使》〔図7〕が描き加えられた。これらの2枚をメルカーは宗教的なメタファーで表された革命の隠喩であると解釈しているが(注25)、むしろこの2枚は死後の人間とその復活を意味していると考えるべきだろう。なぜなら、この時期に描かれた《墓地の入り口》や《音楽家の夢(天上の音楽の寓意)》〔図18〕などに見られる天使のモチーフは、死後における魂の復活を示唆するモチーフとなっているからである。画家は兄に宛てた手紙の中で牧師の言葉を引用して次のように書いている。「「大地から君は生まれた、大地へ帰り、そして大地から再びよみがえるのだ。」よみがえるのだ!復活するのだ!僕たちの不

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