鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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■Léon Cerf, Souvenirs de David d’Angers sur ses contemporains: extraits de ses carnets de notes; 所蔵先であるHamburger Kunsthalle, Kupferstich Kabinettの作品データによる。■Börsch-Supan und Jähnig, a.a.O., S. 402に記されている3点の展覧会評については原典を確認し―98―注Helmut Börsch-Supan und Karl Wilhelm Jähnig, Caspar David Friedrich: Gemälde: Druckgraphik undbildmäßige Zeichnungen, München: Prestel-Verlag, 1973, S. 402−403, BS338−340, S. 450−451, BS431−434.市民的な生き方が反映されていると述べているが(注31)、こうした男女の姿にも、当時の政治的な状況が反映されていると考えられる。画家がこうした一組の男女を作中に描くようになるのは、解放戦争後のことであった〔図21−22〕。そして、これらの作品で男性たちの多くは、すでに指摘されているように、フリードリヒの友人で愛国主義者のアルントが提案したドイツの国民服を身につけており、それは反体制的な政治的立場を示すと見なされていた(注32)。注目すべきは、こうした政治的態度がまた、人々のあり方をも規定していることである。《秋》〔図19〕では、兵士である男性が前へと進もうとするのに対し、女性は頂上に小さく見える十字架を指差しているが、この男女の姿はまさに、アルントが述べた男女の役割に対応するものである。「男性たちは、(中略)家の外に広がる、無秩序で変化の多い混乱の中に、いっそう多く活躍の場を見出す。女性たちは落ち着きと信心深さ、そして常に変わらない気持ちによって、平穏、敬虔、愛へとふたたび立ち返らなければならない(注33)。」このように、人々の求める自由が果たされるためには、男女がそれぞれの役割を果たすことも求められたのである。本連作に描かれた一組の男女の姿にも、そうした同時代的意味を読み取ることができる。結語7枚で構成された本連作は「世界」を表すと考えられ、ここでは、かつての神ではなく、新たな信仰に導かれた人間によって、「世界」が捉えられている。こうした世界観の背景には、ナポレオンによるドイツ支配と解放戦争という政治的な変革があり、自由を求める政治的な希望はまた、人間のあり方に影響を及ぼしていたのである。以上のように本連作は、19世紀前半の政治的変革を背景にして、自由という希望に導かれた人間存在によって「世界」を把握しようという、画家の世界観の表現であると結論づけられる。た。autographes, Paris: La renaissance du livre,[1928], pp. 105−106.

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