―121―○「押し絵画巻」(宮内庁三の丸尚蔵館)さて、最後に注目したいのが、宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の探元筆「押し絵画巻」である。これは、2006年に同館で開催された「花鳥―愛でる心、彩る技〈若冲を中心に〉」展において初公開された注目すべき作品である(注9)。この画巻は、絹地に描かれた五面の絵(うち三面は団扇形、二面は長方形)が貼り付けられたものである。箱書きには「繪巻物 おし絵」とある。現在のところ詳しい伝来は不明ながら、京都御所に伝わっていた可能性も考えられる。この画巻は探元が京都において求められていた二つの役割を一巻で象徴する作例と言える。第一図(落款「黔贏探元邨々子」印章「浄徳堂」朱文円印)〔図5〕は、樹木にとまる番の鳥を描いた、狩野派の花鳥画によくある作例のように見える。しかし実際は非常に珍しいモチーフが描き込まれていることをここで指摘したい。墨線主体で描かれた樹木の幹には、別種の植物が着生しているのである。小さめの白い花が咲いたこの植物は、らん科の常緑多年草である名護蘭といい、温暖な地域の樹木や岩に着生するのが特徴の植物である。この図でも気根という根を長くのばし幹にしっかりと根付いた姿で描写されている。このような様子を描いた花鳥図は、狩野派はおろか他に例がない。この名護蘭は先に挙げた「中山花木図譜」の中にも描かれており、比較すると葉の向きや根の出方がほぼ一致する〔図6〕。ここから探元は「中山花木図譜」の図様を題材として用い、彩色花鳥図を描いていたことが判明する。また樹木の枝にとまる鳥も、額は白、頭頂部は青灰色、嘴は赤、背と羽は緑、胸は赤みがかった灰色という従来の花鳥図では見慣れない種類である。これはその特徴からキンバトの亜種琉球金鳩(リュウキュウキンバト)と思われる。琉球金鳩は琉球諸島南部に生息する留鳥で、今では天然記念物に指定される希少種である。つまり第一図は琉球特有の花と鳥をモチーフにした花鳥図といえる。名護蘭と琉球金鳩は繊細な着色で写実的に描かれている一方で、樹木の峻法や点苔は狩野派の水墨画様式に則っている。三顧の礼の場面を描いたと思われる第二図(落款「探元斎守廣」印章「探元」朱文方印・「黄瑞」白文方印)〔図7〕、唐子を描いた第三図(落款「探元斎守廣」印章「黄瑞」白文方印)〔図8〕、唐美人を描いた第五図(落款「探元斎守廣」印章「探元」朱文方印・「黄瑞」白文方印)〔図9〕は、中国の人物を描いたものでおそらく粉本など下敷きとなるものがあったと思われる。このうち第五図は、探幽門下の桃田柳栄(1647〜1698)による「官女図巻」(鹿児島市立美術館蔵)の冒頭の図様と一致する。柳栄は薩摩藩の御抱え絵師となった絵師で、この「官女図巻」も島津家旧蔵と伝えら
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