鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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6ヴェリアの救世主キリスト復活聖堂における旧約の預言者―203―〔図4〕と「冥府降下」〔図5〕がそれぞれ独立して配される(注2)。研 究 者:岡山大学大学院 文化科学研究科 博士課程  橋 村 直 樹はじめにギリシア北部、マケドニア地方のヴェリアにある救世主キリスト復活聖堂(以下、キリスト聖堂と略す)は、14世紀初頭に建てられた単廊式のバシリカ小聖堂で、内部に画家カリエルギスによる創建当初からのフレスコ壁画を有する〔図1〕(注1)。聖堂の東壁〔図2〕には、アプシスのコンクに立像の聖母子と二天使が配され、上部区画に「受胎告知」と「マンディリオン」が描かれる。最上段の破風状区画には、二天使に支えられる「インマヌエルのキリスト」が表され、その左右に旧約の王ソロモンとダヴィデが配される。長方形の壁面を有す南壁と北壁は、三段のフリーズ状に分割され、上段に新約からの諸場面、中段に四福音書記者や預言者などの胸像を含むメダイヨン、そして下段に修道士や軍人聖人などの全身像が描かれる。西壁の入口上には奉献銘文が記され、上段全面に「生神女御就寝」、その上の破風状区画にヨアキムとアンナが描かれる〔図3〕。また北壁と南壁にはブラインドアーチがあり、「磔刑」このような装飾プログラムを有すキリスト聖堂の中で特に注目されるのは、南北壁面中段のメダイヨンに描かれる旧約の預言者である〔図6〕。メダイヨンの中で預言者は、巻物を広げて左右を仰ぎ見ており、中段に配されるその他の諸聖人と比べて動き豊かに表されている。巻物を広げる仕草や顔の動きから、預言者がその上部に展開されている新約場面を見つめていると推測される。本稿は、このような新約場面を見つめる旧約の預言者像に注目し、他のビザンティン聖堂一般における預言者像と比較考察することで、キリスト聖堂における預言者の特徴について明らかにし、装飾プログラム全体の中で担う役割について一つの見解を提示する試みである。1.キリスト聖堂における旧約の預言者と新約諸場面の関係まず、キリスト聖堂の南北壁面の中段に描かれる預言者について、その描かれ方や巻物の語句に注目して具体的に見てみよう(注3)。一人目は、南壁の西側よりに位置しているゼカリヤである。栗毛で短髪のゼカリヤは、向かって右に巻物をかざして上を見つめている〔図6〕。巻物には『ゼカリヤ書』9章9節からの「娘シオンよ、大いに踊れ。娘エルサレムよ、歓呼の声をあげよ。見

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