―300―(2)『鳥獣略画式』大本1冊 25丁 寛政9年8月刊(奥付)江戸・須原屋市兵衛版「略画式」を冠したA斎2番目の絵手本。題が示す通り、生き物(魚や虫も含む)にテーマが絞られている。この後も『人物略画式』(寛政11年)、『山水略画式』(同12年)、『竜の宮津子』(享和2=1802年、後に『魚貝略画式』と改題)、『草花略画式』(文化10=1813年)が続刊され、「略画式」という言葉はブランド化するに至る。『鳥獣略画式』の改刻本が非常に近しい場で制作されたことを意味している。(3)『人物略画式』大本1冊 32丁 寛政11年刊(奥付)江戸・須原屋市兵衛版本書は、寛政9年刊本(A本)のほか、後に大坂に版株が譲渡され、奥付のA斎落款と彫師・春風堂野代柳湖の名はそのままに、刊年を埋め木で「文化癸酉六月」へと、版元名を「浪花書林」へと変更した文化10年刊本(B本)がある(シカゴ美術館蔵)。さらに、『鳥獣略画式』にも序文から奥付に至るまで全てをそのまま彫り直した改刻本があることを確認した〔図5〕。『略画式』と違い、初版本と並べ比べてもにわかには分からないほどの精巧な改刻技術である。そして、精巧なあまり判断に迷うが、改刻本の奥付は『略画式』改刻b本〔図6〕と同版ではないだろうか。つまり、『略画式』改刻b本の奥付は、本改刻本の版木を流用したということになり、『略画式』と改刻はいつ、どこで行われたのか。略画式シリーズ第3番目の本。人物描写に焦点を絞る。『国書総目録』所載の寛政7年版・同9年版の国会図書館本はともに『略画式』であることを確認したので、『人物略画式』の初版は寛政11年で良い。本書も、初版本(A本)のほか、大坂に版株が譲渡され、初版と同版ながら奥付の刊年・書肆名のみを「文化癸酉六月」「浪花筆林」と埋め木した文化10年刊本(B本)がある(千葉市美術館蔵)。本書にも改刻本があることはすでに報告されている(改刻a本)(注11)が、さらに、本文は改刻a本と同版ながら奥付に「彫工 江川留吉」とある1冊も存在する(改刻b本)〔図7〕。この奥付には続いて「A斎略画式 初篇/人物略画式 二篇/鳥獣略画式 三篇/山水略画式 四篇/魚貝略画式 五篇/右五冊出来候間御求御覧可被下候」とあり、版元・須原屋市兵衛の名のみ、初版に酷似した筆跡で残している。彫師・江川留吉の活躍期はA斎の晩年にあたる文政4年(1821)頃からとされ(注12)、その頃は須原屋市兵衛の活動は見られない(注13)。この奥付を信じれば、改刻本は当初の版元とは無縁の場で制作されたことになる。そして、「右五冊出来」が事実であれば、先述した『略画式』『鳥獣略画式』の改刻本はともに、本改刻本と同時期に
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