鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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,フランシスコ・ゴヤの初期宗教画の分析―32――アウラ・デイ修道院付属教会壁画を中心に―研 究 者:マドリード・コンプルテンセ大学大学院 美術史学科 博士課程後期はじめに本論文の目的は、サラゴサのアウラ・デイ(カルトゥジオ会)修道院付属教会の装飾壁画について、ゴヤのどのような美学的な視点がこの作品に現われはじめたのか、大衆的な女性像の描写が聖母マリアや聖女の姿、あるいは場面に登場する人物にわずかにでも見られるのか、この連作を中心にこれらの点を問題提起として論ずることにある。これは、報告者がゴヤの初期宗教画を考察する過程で、アウラ・デイ(カルトゥジオ会)修道院付属教会の装飾壁画と他の初期作品との相違を推察したことに端を発する。また上述の骨子の考察には、作品の推定制作年代も重要な点となっている。現在の修道院付属教会:ゴヤの描いた連作「聖母マリアの生涯」の現存する作品は、11枚のうち7枚のみである。また現存する作品の中にも一部分が損失し、後世に修復されたものが含まれる。門の出会い》から始まり、アプシスに向かって北側壁面の《聖母の誕生》から南側壁面の損失した作品《聖母の神殿奉献》へ以後ジグザグに物語の場面は展開する。〔図2〕教会入り口の上壁面:ヨアキムとアンナの金門の出会い(画面右損傷)A:北側壁面:聖母の誕生(画面右損傷)、聖母の結婚(画面右損傷)、聖母のエリサベツ訪問、キリストの割礼、キリストの神殿奉献B:南側壁面(ポールとアメデ・ブフェ兄弟が損失部分を補正して描く)(注1):聖母の神殿奉献、受胎告知、イエスの誕生、東方三博士の礼拝(大部分ゴヤ)、エジプ(修道院は現在もカルトゥジオ会の修道士が生活しており、作品の公開は月に二回のみで時間も約45分に限られる。特別な実地調査は、アラゴン州の許可書を要するが、容易には得られない)〔図1〕[作品の位置]連作の主題の進み方は、教会の入り口の上部、《ヨアキムとアンナの金村 井 蓉 子

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