鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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―394―(あるいはそれに継続する活動のひとつとして)、本作の入手が想像されるとのことでされているためか、比較的良好な保存状態であった。同アカデミーのコレクションにはアカデミア・ディ・サン・ルーカ旧蔵のものが多数含まれている。それらは石膏像の製作受容史を遡って考察するうえで、貴重な資料となるだろう(注8)。たとえば原寸大のモニュメンタルな《カストールとポルックス》や繊細な衣襞を見事に再現した《クレオパトラ》〔図3〕、等身大を越える立像《ベルヴェデーレのアンティノウス》などは、先に振り返った日本近代の石膏受容史には登場しなかった作例である。いっぽう、《ファルネーゼのヘラクレス》や《ジュスティニアーニのミネルヴァ》〔図4〕は日本国内でも確認できた。もちろん古代彫刻の代表といえる《ラオコオン》や《ベルヴェデーレのトルソ》もアカデミーのコレクションには含まれている。全体に、工部美術学校コレクション以上に18世紀の古代趣味に近いレパートリーと言えるだろう。その一方で、パルテノン神殿のフリーズやメトープ彫刻、さらにペディメントの《イリッソス》が展示保存されており、19世紀の近代考古学の浸透も看取される。古代彫刻ではないが、作品移動史の観点から興味深いのは、ミケランジェロの《反抗する奴隷》石膏模像の台座部にルーヴル美術館製であることを示す金属プレートが見出されることである〔図5〕。アカデミア・ディ・サン・ルーカ学芸員、アンジェラ・チプリアーニ氏によれば、ナポレオン体制崩壊後、アントニオ・カノーヴァによって進められたイタリアの美術作品のフランスからの回収活動との関連であったが、これについては今後さらに調査を進め、東京美術学校が作品をルーヴル美術館、ボストン美術館から入手した事例と重ねつつ、石膏模像の世界的な流通史をあとづけたく思う。おわりに:今後の研究について本研究の目的は大きく二つに分けられる。ひとつは日本近代における古典古代受容の特徴を、石膏模像の移入・受容という観点から分析すること。もうひとつは、そうしたコンテクストを明らかにすることで、個々の石膏模像の史料的重要性、修復保存管理の必要性を訴えることである。前者については、(a)18世紀的古代趣味の余韻(ローマ美術アカデミー、工部美術学校の事例)と(b)近代的な美術史学の反映(東京美術学校の事例)、そして(c)日本国内での「特殊な一般化」(たとえば入試課題としての普及状況)という3段階を設定しつつ、今後、さらに調査研究を進めていきたい。(a)についてはフォンタネージが教鞭を執ったトリノのアルベルティーナ美術アカデミーの調査、(b)については、ルーヴル美術館の複製製作部門との協力が必須

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