■湖南焼・高槻焼・三井御濱焼(長等山湖南焼)―436―世界が表れている。保全最晩年に焼かれた湖南焼・高槻焼・三井御濱焼(長等山湖南焼)などは、ほぼ同じ作行きを示しているため本項にて一括して論じる。〔表1〕に掲出したこの3箇所の作品のうち、6割が祥瑞写しであり、まさに保全晩年の作陶を特徴付けるものといえる。「祥瑞写釣瓶水指」(注9)は、底裏に「嘉永五年壬子初秋 於高槻永樂置造」の染付銘をもち、1852年高槻での作品と判明する。器形は室町時代末期頃流行した金属器の釣瓶水指〔図12〕をモデルとしている。この胴部中央の文様構成は巧みで、釣瓶形の側面の、把手の付け根にあたる位置にそれぞれ松と梅を配し、その伸ばした枝によって場面を区切り、山水人物図と花鳥図を自然に展開させている。口縁には祥瑞本捻鉢や向付などによくみられる梅花波文を、胴裾には万暦青花の壺類にみられる蓮弁文をめぐらしている。同じく高槻焼の「祥瑞写腰鎬筒水指」〔図13〕は胴の中程より下を凹凸のある鎬状に作り、同時に文様も上下2分割の構成としている。本歌の祥瑞と照合すると、このように幅広い文様帯を上下に構成する例は、胴締茶碗や瓢形徳利といった上下の形状に明確な変化のある作品に多い。すなわちこの作品においても、小型の茶碗や名物の徳利などが意匠の基本として使われているのである。「祥瑞写台鉢」〔図14〕は、高台内に「永樂保全製于湖南」の染付銘をもち、箱書に「甲寅於湖南御濱初窯 保全製」と記しているといい、嘉永7年(1854)に円満院御濱御殿の初窯で焼造された作品とされる(注10)。器形は本歌の祥瑞には全くみられないもので、その文様構成も新しく工夫されている。胴の側面には扇面を散らし、鳥獣や山水の文様で埋め、内面は側面を2段に分け祥瑞通例の山水文と松竹梅文をめぐらす。最晩年の保全の旺盛な創作意欲がうかがえる作品である。ここで保全の祥瑞写しの特徴をまとめると以下のようである。①祥瑞文様の構成要素は、茶碗・盃・香合といった小型の器からとったものが多い。水指など比較的大型の器種においても同じ手法をとっている。②本歌祥瑞の文様構成は、文様単位を並列させることが多いが、保全作品には直列の構成が多い。③茶碗や鉢など筒状の器物の口縁内側には、山水人物の文様帯をめぐらせる。
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