鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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―444―1940年代には絵文字に関係した作品、言説が多く生産されたことは先述したとおりであるが、なかでもゴットリーブは、1941年より約10年間という長期にわたり「ピクトグラフ」と呼ばれる連作を制作した。彼が同シリーズに着手するのは、1941年である。以後1951年までの間、計9回の個展を開催し、そのうち2回の展覧会に「ピクトグラフ」というタイトルがつけられた(注1)。作品タイトルは、「ピクトグラフ」と題されるものと、そうでないものが混在しているが、その形式は一貫しており、タイトルが「ピクトグラフ」でないものも、「ピクトグラフ」シリーズとして位置づけられている。《オイディプスの眼》〔図1〕は、同シリーズ最初の作品である。画面をグリッドで仕切り、そこに具象的な形象を配置するという本作品の形式的特徴は、その後も大きく変化することはない。グリッドで仕切られた画面は、単色の地に線でグリッドを描いたもの〔図2〕、仕切られた小平面に異なる彩色をしたもの〔図3〕というように、いくつかのヴァリエーションがある。また、具象的形象も、線描のみによるもの、彩色されたものがあるが、いずれも3次元性を感じさせないよう処理される。これらの形象は、当時ゴットリーブが大いに関心を寄せていたアフリカ、オセアニア、アメリカ先住民の美術、あるいはユングの言う集合的無意識の象徴に取材したものであると先行研究で指摘されている(注2)。「ピクトグラフ・シリーズ」の着想の経緯について、ゴットリーブは以下のように語っている。「1941年に、そうですね、私に関する限りですが、それはロスコとの会話から始まりました。その会話で私は、我々が直面しているこの問題を解決するための方法のひとつは、我々の周囲にあるものとは異なる類の題材(subject matter)をなにか見つけることだと思うと言ったのです。[中略]私は神話のテーマのような、古典的な主題(subject)はどうだろうかと言いました。[中略]マークがアイスキュロスの演劇からテーマをいくつか選んで、私は試みにオイディプス神話をいじってみました。この神話は、古典的なテーマと、フロイト的テーマを兼ねるものでした。」(注3)ゴットリーブの語りによれば、《オイディプスの眼》着想のきっかけは、まず題材の見直しにあったようだ。「我々の周囲にあるもの」とは、政治性の強いリージョナ

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