技法―457―遊ぶタイハクオウムを描いた「鸚鵡図」〔図10〕は紙を円形にし、自然景に鳥を配さない点も他図と趣向が異なる。オウムの白い体は紙の素地で表し、羽毛を輪郭線と同じ茶褐色の細線で摺る。止まり木の唐草文様は二色の赤を重ね、餌入れに白点を施すなど、大変精緻である。技法について、背景の黒地は紙背に馬連跡があることから木版摺、色彩部分は馬連跡がないことから型紙を用いる合羽摺とするのが定説となっている〔図11〕。合羽摺は防水性の型紙を用い、筆や刷毛で彩色する技法で、江戸の見当法による木版多色摺の錦絵に対し、上方で盛んに制作された。我が国最初の色摺画譜といわれる大岡春卜の『明朝生動(紫硯)』(延享3年・1746刊)は、木版摺と合羽摺を併用している〔図12〕。春卜の絵本から約二十年後の明和4年(1767)刊行の雪坑斎北尾辰宣の『彩色画選』は一部に木版摺も使用するが、吹き墨の技法も見られ、合羽摺の表現が広がっている〔図13〕。しかし、若冲の「花鳥版画」は春卜や雪坑斎の合羽摺絵本や、また合羽摺の上方役者絵などとは、異なる表現を見せている。合羽摺特有の色面の淵に生じる絵具溜まりも見られない。合羽摺を一部に用いたことは確かだろうが、著色部分全てが合羽摺であるか検討したい。色面の中の白抜きの点や線に注目すると、「椿に白頭図」のシマヒヨや「青桐に砂糖鳥図」のサトウチョウのように、羽毛を表す点や線を色面中に白く抜き、紙の素地で表している〔図14〕。合羽摺で白抜きの点や線を表すためにはその部分に絵具が載らないよう防染しなければならない。もしくは二枚以上の型紙を用いることになるが、その場合、型紙の繋ぎ部分が見えるはずである。しかし木版摺ならば、白抜きの点や線は版木を彫ることにより容易に表現できる。次に全図に用いられる梨地風の微細な白点表現に目を向ける。例えば「青桐に砂糖鳥図」の葉は、緑色の上に白い絵具を撒いたのではなく、絵具が載らない紙の素地により表されている〔図15〕。それは白点の周囲にわずかに緑色の絵具が溜っていることからも明らかである。合羽摺でこの白抜き点を表現するならば、絵具が載らないよう一点一点に糊などで防染した後に、絵具を刷くことになる。しかし木版摺ならば、白抜き点は版木を点状に陰刻することにより表現できる。点がきれいな円ではなく、角があることも彫刻刀で彫った可能性を示唆する。また、平木浮世絵財団の本図とフェレンツ・ホップ東洋美術館の同図〔図16〕を比較すると、白抜き点が同じ位置にあることがわかる。点が繋がり線状になった部分も共通する。もし白点が紙の素地では
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