―466―が入室した門跡・尼門跡寺院をはじめ、自分の一族に縁故のある寺院、身近な武家・公家が興した寺院、そして自分の菩提寺である。また公家・武家双方に下賜品を与える機会が多かった。武家の記録が比較的多いのは、幕府の使者となり、宮中より与えられた褒美が、家の名誉として書き残されていることによる。分析方法は、まず「分析1」では、記録類から東福門院の和歌に関する下賜品にどのようなものがあるのか概要をとらえる。「分析2」では、色紙(手鑑)・短冊・押絵を中心とする現存品から、撰出歌や歌人における特徴を見出す。酒井家文庫(小浜市立図書館保管)所蔵の短冊和歌(24首)から、一揃いの短冊の特徴を推定する。「分析3」では、シカゴ美術館所蔵「桜紅葉図屏風」(六曲一双)から、好みとした屏風絵における和歌の特徴を見出す。この屏風絵については、近年東福門院の所用品として紹介されたが(注4)、和歌の内容と絵を総合的にとらえた考察は未見である。短冊和歌の典拠については、アメリカの所蔵先でほぼ解読されていたが(注5)、今回筆者は、さらに解読して全歌を明らかにしたので、その考察を試みたい。分析1:記録類・現存品にみる和歌の種類〔表1〕は、記録類から和歌関係の下賜品を抽出したものである。これらの下賜品は二つの種類にわかれる。一つは、歌仙を主題とした色紙・手鑑・押絵である。押絵とは、織物など裂を絵の形に切り抜き、台紙に貼付け、顔など補筆して絵として完成させたものである。東福門院はこれを得意とし、歌仙の他にも演能場面、花の折枝、馬郎婦観音像(注6)を作り、縁のある寺院や人々に贈った。もう一つは、「女院御所御好四季和歌之御屏風一双」という記述にあるように、四季などテーマに基づいて和歌を撰出した屏風絵である。分析2:現存品における和歌の内容(色紙(手鑑)・短冊・押絵について)〔表2〕は、現存する和歌を主題にした下賜品である。現存品の色紙(手鑑)・短冊は、染紙に細かい金銀泥絵や料紙装飾がほどこされたものである。1〜6までの押絵では、3の渡唐天神をのぞいて歌仙となり、7〜11までの色紙と短冊にも、歌仙のものがみとめられる。一揃いの形体で参考となるのが、酒井家文庫(小浜市立図書館保管)所蔵の短冊和歌である。これは、小浜藩主・酒井忠勝(1587−1662)が拝領したと伝えられる品である。由来には、忠勝が幕府の大老として長きにわたり東福門院から信頼を寄せられ、
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