鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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―469―短冊の和歌は、短冊がさまざまに翻る様子で描かれているために多くが断片的である。和歌を解明することも、趣向の一つであったかもしれない。〔表3〕では短冊に書込まれていない言葉を()に入れて補った。選出の和歌は、全て勅撰集である。古今2首、後撰3首、拾遺3首、後拾遺3首、金葉3首、千載4首、新勅撰2首、続後撰4首、続古今1首、続拾遺1首、玉葉1首、続千載4首、風雅1首、新千載3首、新拾遺2首、新続古今3首となり、数量からみて撰集に際だった偏りはみとめられない。21代集の中16集が取られ、ここに前述の酒井文庫短冊にみた新古今は含まれていない。歌人は全40名で一人1首である。歌人の時代は幅広く、紀貫之など平安時代中後期の歌人が大半であるが、14世紀歌人も8人入っており、必ずしも古典に偏っているわけではない。よって歌仙であるのは、中古歌仙4人、古歌仙4人、新六歌仙1人にすぎない。これらは、前述の酒井文庫短冊でみた特徴とは異なる。さて和歌の内容の特徴は次のようにまとめられる。(sは桜図、mは紅葉図内短冊を指す)1桜図の和歌は、「桜花(さくらばな)」紅葉図は「紅葉(もみじば)」の言葉を含む。2 桜図の和歌は、咲き初め・満開・散る桜を、主に賛歌的に詠む。3 紅葉図は、紅葉の色が時雨や露・霜によって深まることを主に余情的に詠む。4 表現は、平明な言葉を用い、直截的である。5 名所など特定の地名が詠まれていない。6内省的・哀傷的なものは少ない。哀傷的なものは桜s4、主観的なものは、紅葉m7・18程度である。7桜の歌の配列には、右から左にかけて咲き初めてから満開を迎え、散りゆくまでの時間的推移が表されている。第一紙のs1・2では咲き初めの桜、第3紙のs8・9・10で満開に、第4・5紙のs15・16・17・19・20では散りゆく桜の歌となっている。以上、シカゴ美術館所蔵桜紅葉図屏風について、東福門院の和歌の選び方をみると、勅撰和歌集を基盤としているが、特定の和歌集や特定の歌人に偏らず、絵の趣向にあわせて歌の意味や表現を吟味していると考えられる。○まとめ東福門院の下賜品における和歌について、自詠のものは現時点みとめられないが、勅撰和歌集から撰集しており、色紙(手鑑)・短冊・押絵には歌仙を中心に撰集し、屏風絵には歌仙や特定の和歌集に偏らず、絵の趣向によって撰出している。

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