鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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―533―なお、翌17日は、小佐野教授および大学院生有志とともに鎌倉を訪れ、建長寺や長谷寺を見学したが、とりわけ長谷寺の縁起に強い関心を寄せられていた。というのも聖母子像イコンが生動化するという問題を昨今のテーマとされており、観音像が海を泳ぐという伝説の存在に、このトポスの普遍性を認識されてのことである。また参加した学生は、ヴォルフ氏の開放的かつアカデミックな応対に、緊張感を抱くことなく接することが出来、貴重な体験を持つことが出来たようである。氏は英語、ドイツ語、イタリア語、フランス語を自在に扱われ、西洋美術史のみならず日本美術史の学生たちと積極的に交流してくださり、大いに学生諸君の研究意欲を高めてくださった。とりわけ細分化しつつある学問の狭い境界線に囚われることなく、大きな視野で生き生きとした好奇心をもって研究、勉学に臨むべきことを、実践的に示してくださったことが、このエクスカーションに参加した学生諸君には良き財産になったものと思われる。また、ヴォルフ氏は今回の滞在において、様々に共同研究の可能性を見出されたようで、日本の研究者への学問的信頼感を示されるとともに、今後密接なコンタクトを持続される強い意志を表明され、日本を離れられた。今後フィレンツェ、ドイツ美術史研究所との共同プロジェクトをはじめとする様々な提案が、ヴォルフ氏側からなされる可能性は小さくなく、また我国の西洋美術研究者のみならず仏教美術研究者にも、国際美術史学会のドイツ代表でもあるヴォルフ氏の広大なチャンネルを通じて、一層の国際展開の余地が生まれるものと期待され、今回の招聘には将来的な意味も含めてそれなりの意義はあったものと思われる。

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