鹿島美術研究 年報第24号別冊(2007)
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―87―保6年(1835)に日本で翻刻したもので、『水滸伝』に登場する108人の梁山泊の英雄が図像で収録されている(注8)。本図に、白石生、李賀らの仙人に混じってこれら5人の『水滸伝』の登場人物が含まれているのは、彼らの超人的な技が仙人の仙術にも通じるためだろうか。同書の図と本図を比べると、孔明、孔亮の位置が改められている他は、ほぼ正確に写し取られている。香村の作画に際しての版本利用を明瞭に指摘できる事例である。また、巻頭の一図には、『天D地E圖』以外の版本が利用された。ここには、右側に立つ二人の人物と手振りを交えて語る長頭短躯の異形の人物が描かれ、右の二人の人物の脇には「h和璞」と名が記されている。この図で参考にされたものが『列仙全傅』中のh和璞と泰山老師の図であると思われる。h和璞の名のみ記され泰山老師の名が記されていないのは、おそらく、香村が参照した『列仙全傅』にも、h和璞の名のみが刻され、泰山老師の名がないためではないだろうか。『列仙全傅』はh和璞のもとを泰山老師が訪れる場面を描いているのだが、異形の人物が泰山老師であることを香村は知らなかったために、その名を自作に書き込む事もなかったのであろう。香村の版本利用とその理解の限界が窺い知れる。《群仙図巻(人物譜)》〔図7〕以外にも、版本の利用を窺える作例がある。正確な図像の引用ではないが《太公望図》(個人蔵)〔図8〕には『圓翁畫譜』、《琴高・陶弘景図屏風》(個人蔵)には、『唐土名勝図会』・『列仙図賛』等からイメージが取られているように思われる。また、《琴高・陶弘景図屏風》(個人蔵)と《陶弘景蜀桟道図》(福島県立博物館蔵)の陶弘景は衣服の彩色、侍童の位置こそ異なるものの、全く同様の姿態であり、共通の版本か粉本の存在を示している。近時発見された新出の《韓信岳飛図屏風》(個人蔵)は、総数78人に及ぶ人物が生き生きと描かれ、その配置、配色も巧みで、賑やかな中にも穏やかな調和を見せている。画中の井戸の側面や人物の持つ拡げた扇子の中に隠して画題や年記を書き込む機知も楽しい。香村作品の中でも最も優れた作品に数えられるもので、従来の香村人物画の認識を改めさせる一点である。3 着賛のある作品着賛のある作品からは、香村と何人かの画家、文人との交流が明らかになる。中幅の費長房を伊勢の画家月僊が、左右幅の山水を香村が描いた《仙人(費長房)山水図》(個人蔵)〔図9〕は、香村と月僊の接触の可能性を示唆している。香村山水図に月僊の画風に近いものがあることも指摘しておきたい。

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