―123―リュシアンは、美が実現されるために、余白とテクスト、タイプとページのあいだのプロポーションが重要であることを強調する。われわれが風景を観賞するとき、高い男、背の高い木、それらのあいだの関係が、われわれに力を与え、それを美しいと感じるように、余白とタイプの幾何学、それらの関係が書物に美を与える。すなわち、「建築の力は、プロポーションの美のなかで、この喜びに訴える」。ここで、リュシアンは、同時代のモリスやクレインあるいはベルギーの工芸家ヴァン・デ・ヴェルデと同じく、書物における装飾やタイポグラフィの構成を建築と類比しながら、美は「異なる表面のあいだの調和と対照から由来する」ことを説明し、本の装飾に自然の形態が注意深く用いられるべきだという(注9)。そして、プロポーションの静的な構成に対して、文字は、動的な形態やリズムの美を表す〔図15〕。エラニー・プレスの書物は、余白が強調されることによって、ページ全体のデザインはきわめて簡素なものになっているが、頭文字のタイポグラフィはとりわけ精密に仕上げられているのが特徴である。彼は、モリスのタイポグラフィの理論を仏語で紹介する著作において、フランスのゴシックの重要性について強調しているが、同様にエラニー・プレスはロンサールの『フランス詩法の抜粋』〔図16〕を復興することで、詩の音律における自然の形態の模倣という主題を取り上げている。こうした過去の方法論の復興は、それ自体で、リュシアンによる詩とタイポフラフィや装飾をめぐる理念を表すものにもなっているだろう。エクリチュールにおける、音律と視覚的なリズムとの類比には、同時期にマラルメやヴァレリーによる近代詩やダンスをめぐる議論と同時に、中世の詩法や装飾の見直しとも結びついているのである。4 おわりにリュシアン・ピサロの多岐にわたる試みは、簡素で控えめであるが、世紀末の英仏における挿絵をめぐる様々な試みの最良の成果を丁寧で繊細なスタイルで要約している。これらの挿絵や物語とリュシアンやカミーユの絵画表現自体との関連については今後の作業に譲りたいが、19世紀末の芸術の展開と不可分であった挿絵は、近代詩とともに、古代や中世の物語や感情の復興とも切り離すことができない。とりわけ、自然の形態の装飾には、機械の速度に抗するものとして、詩や物語のもつフレーズの反復や音韻のリズムとの模倣や相同性が追求されていたのである。リュシアン・ピサロは装飾本の流行の終焉の時期に、エミール・モーズリーの原作に挿絵をつけた『楓の犂』〔図17〕を発表している。この作品では、オリジナルのデ
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