―188―ランスの教会復興の運動に伴い、意識的に教会装飾に携わったことは特異であろう。5.ドニのジャンヌ・ダルクの図像表現におけるその絵画理論の実践《聖別式》、《聖体拝領》という二つの作品に見られるような構図は、実はドニの作品において多く見られるものである。平面性を強調してきたドニの絵画においては、このように対象を水平垂直に捉えて描くことは、それほど珍しいことではない。特に《聖体拝領》においては、装飾的文様は画面の外に追いやられ、画中では、人物の姿勢、棒や槍により垂直線が強調されている。絵全体の印象としては、初期ルネサンスの絵画を想起させるが、線の省略や色使いからはむしろ現代的なアレンジのように見える。《聖別式》は、下絵のため、荒々しく描かれ、点描が強調されているが、やはり、垂直線が際立つ。こうした幾何学的な線により、聖別式や聖体拝領のような神聖な儀式であることがより強調されている。そこから、正確に歴史を叙述する意図とともに、儀式的内容と構図を強調し、新たな形式の絵画を描き出そうとする意図が感じられる。《聖別式》を1908年制作のエルミタージュ美術館蔵モロゾフ邸のための装飾パネル《プシュケの物語》〔図8〕と比較すると、後者では点描と装飾文様が強調されており、前者同様、点描効果を狙った描き方がされていたことが分かる。点描表現は以前から用いられてきたが、グラデーションのような色使いによる点描は1909年頃頻繁に用いられている。ドニの絵は、中世を思わせる構図をとり、時代考証に忠実でありながらも、「モダン」な体裁を崩していないように思われる。それは、ドニが聖画像を描く際に、聖と俗を反復するような人物描写と背景描写を組み合わせて描いていたことにある。例えば、家族を扱った絵においては、日常のモチーフに宗教的構図を組み入れることによりそれを可能にしている〔図9〕。ラファエル前派やアングルの弟子のような中世回顧とは異なり、現代風に思えるのは、中世、初期ルネサンス風の衣装をつけた人物とともに、近代的構図をもたらしたことにあると思われる。それは、ドニの絵画定義に通じるものであるように思えるのである。ドニにとって絵画とは、「平らな表面でなければならない」が、その理論は後の自らの絵画理論において変容し、絵画には「自然と様式の間のバランス」、すなわち絵画の対象である自然と自然の描き方との間のバランスを保つことを重視し、自然と様式を「対象と主体(主観)」とも言い換え対象とそれを構想する画家の想像力の間に均衡を保つことで成り立つもの、が必要であるという絵画論へと行きつく(注17)。この場合、ジャンヌ・ダルクという対象とそのモダンな様式との間のバランスをとっているのである。それは単に過去指向的とい
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