鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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6室町期の障屏画における“和漢混淆”―207――伝土佐廣周筆「四季花鳥図屏風」をめぐって―研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程  岡 本 明 子はじめにサントリー美術館に所蔵される「四季花鳥図屏風」〔図1〕〔図2〕は、前景に花木を配し、それを岩と水流によって緩やかに結びあわせた六曲一双の花鳥図屏風である。本作は昭和44年(1969)に美術史学会の席上で研究者に披露されたもので、後にサントリー美術館の所蔵となり、昭和59年(1984)に重要文化財に指定されている。戦後、室町期の作例と考えられる屏風作品が数点発見されるに及んで、その研究は活況を呈したが、本作品の詳細な検討が充分に行われてきたとは言い難い。その一因としては、本作が他の室町期の屏風作品に類例を見ない、孤立した作例である点が考えられる。室町期の屏風作品は、画面構成や描法などから、大きくやまと絵系の作品と漢画系の作品とに分けて論じられるが、本作はどちらに属すとも断定しがたい作例である。モチーフの選択では雪舟系や狩野派系といった漢画系の花鳥図屏風と部分的に重なるものの、その画面構成には漢画的な要素が少なく、また水流や土坡の描法にはいわゆるやまと絵屏風との共通性が指摘されるなど、本作には様々な要素が混在している。そういった意味では、しばしば室町後期の絵画の有り様を表わすときに引用される「和漢之さかいをまきらかす」(注1)という表現にぴったりの作例と言えるが、和漢混淆の有り様が具体的に解明されているとは言い難い現状では、絵師の特定は言うまでもなく、画派の特定すら容易ではない。そのため、本作はその重要性が指摘されながらも、詳細な検討や絵画史上における位置づけが先延ばしにされてきた感がある。本研究は、サントリー美術館蔵「四季花鳥図屏風」のモチーフに関する具体的な考察を通して、本作を室町期の絵画史上に位置づけることを目的とするものである。その手続きとして、本報告では、やまと絵あるいは漢画といった枠組みを一旦外して、各モチーフがどのような特徴を持つのかについて考察する。1.サントリー美術館蔵「四季花鳥図屏風」の概要サントリー美術館蔵「四季花鳥図屏風」は、紙本著色六曲一双の屏風で、昭和44年(1969)の秋に学会に初めて紹介された。本作品に関する主な先行研究としては、本作品が最初に学会に紹介された折のシンポジウム報告「伝土佐廣周筆花鳥図屏風をめぐって」(注2)、これを発展させた中島純司氏による「異国の鳥を放つ空間−室町時

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