―209―響を受けて描いたものとする説と、漢画系の絵師がやまと絵的な要素を部分的に取り込んで描いたものとする説がある。モチーフをそれぞれ見ていくと、右隻には右端から第一・二扇に椿、第二扇に海棠、第二・三扇に木瓜、第三・四扇に梨、第四扇に牡丹、第五扇に長春花、第五・六扇に柘榴が描かれる。また左隻には右端から第一・二扇に銀木犀と芙蓉、第二・三扇に黄蜀葵、第三扇に鳳仙花、そのすぐ隣、第三・四扇に菊、第四・五扇に白梅、第五・六扇に松、そして左隻左端にはまた椿が描かれる。花木には雀や四十雀、山鵲などの鳥が留まり、或いは飛び交うが、種類のはっきりしない鳥も少なくない。また、芙蓉のまわりを虻が飛び、鳳仙花と菊のまわりを紋白蝶と揚羽蝶が飛ぶ。2.「四季花鳥図屏風」におけるモチーフの選択と庭園の景本作のモチーフには、先述したように中国絵画との関係が指摘されている。具体的には、やまと絵の中で描かれてこなかったモチーフが描かれる、といったいわば題材の流入と、それまでも描き継がれてきたモチーフの描法が中国から舶載された作品の影響を受けて変化した場合の両方が指摘できる。椿や芙蓉などは流入したモチーフの好例であり、紙本著色の雪舟系花鳥図屏風や狩野派系の花鳥図屏風にしばしば見られるモチーフである(注12)。また梅や松はやまと絵系の屏風にも頻出するモチーフである(注13)が、その描法はやまと絵系の屏風作品に見られるものとは異なり、漢画系の花鳥図屏風や、墨梅図などとの描法の親近性が指摘されている。また、屏風作品ではないが、掛幅の彩色花鳥図にも共通するモチーフを見出すことができる。祥啓筆「花鳥図」(神奈川県立歴史博物館)には銀木犀が、また興悦筆「花鳥図」(正木美術館)には梨が描かれている。しかしこのように様々な花木を一図のうちに描きこんだ作例は稀少であると言え、本作における花木モチーフの選択が何に拠るかは判然としていない。中島純司氏は、本作を「漢画的形象素材の羅列」と評し、「何点かの掛幅を集め、これらにある折枝の花卉を挿花的に植え込み、一見全株的にあしらった」とされた。確かに、氏の述べられたように、漢画的なモチーフの羅列は、本作の画面構成を特徴づけていると言えるが、それではこれらのモチーフはただ単に目にすることのできた中国画や、それに基づいた花鳥画を無作為に寄せ集めただけなのだろうか。実は、本作に描きこまれたモチーフと共通する花木を室町後期の庭園に見ることができるのである。宮島新一氏は本作を「どうやら架空の庭園を舞台にとっているらしい」と指摘する(注14)。そして、中国趣味に偏った花木や庭石、築山によって飾られた庭園を営むこ
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