;ウィンダム・ルイス(1882−1957)のヴォーティシズム―260――英国モダニズム美術の展開―研 究 者:大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 特任講師はじめにこの調査研究では、英国のモダニズム美術運動の重要な潮流の一つであるヴォーティシズムとその主導者ウィンダム・ルイス(Percy Wyndham Lewis, 1882−1957)の美術作品を中心に扱い、これらが同時期およびその後の美術界で果たした役割を、とくにその造形的な局面から検証した。日本では、これまでウィンダム・ルイスの絵画はエズラ・パウンドやT・E・ヒュームらとの交流から、イマジズムとの関連で文学的側面から語られ、その造形性に関しては、多くの場合、キュビスムや未来派との類似が指摘されるに留められている。その一方で、とくに肖像画においては、形態の構造が意識され、入念に選ばれた線が引かれている。英国美術の特質がこのようなフォームを意識した鋭い線と風刺画に見出せるピューリタン的な批判精神にあるとするなら、ルイスの絵画作品はこの二つの特質を継承しつつ、英国独自のモダニズム美術を繰り広げているように見える。事実、ルイスは、1900年にスレード美術学校で堅固なデッサン力が評価されて奨学金を獲得し、以後の実験的な試みにおいては特異な色彩画家としての天分さえのぞかせている。1930年代後半には、「美術における線の役割」というタイトルの小論を書き残している。本研究では、このルイスの作品の構造上の特徴に注目し、「再現の完全なる放棄」と呼ばれたヴォーティシズム期でさえ、それが彼の肖像画や具象画と同じ特徴を有していること、それゆえ他の西欧諸国やアメリカで展開されるような色面へと還元される完全な抽象には至らなかったと指摘したい。具体的には、1911年のキャムデン・タウン・グループ第一回展覧会に出品したThe Theatre Manager、1912年の第二回ポスト印象派展で展示されたMother and Child、ヴォーティシズム期に分類される抽象画数点を含む1910年から1920年頃の作例を中心に同時期のほかの作家と比較対照しつつ分析する。それによってルイスの造形理念を明らかにするだけでなく、上記の活動から浮かび上がるルイスのモダニズム美術における特異な位置を際立たせる。天分の開花と修業時代2004年10月14日から2005年2月15日まで、ロンドンのコートールド・ギャラリーで、要 真理子
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