米国における浮世絵、近代版画を通した日本理解について―1900〜1930年代を中心に――282―研 究 者:東京都江戸東京博物館 学芸員総合研究大学院大学 文化科学研究科 博士後期課程はじめに今日、国内のいずれかの美術館・博物館等で欧米の美術館所蔵の浮世絵展が開催され、数十年来全く途絶えることのない状況である。これらの展覧会で出品される「里帰り」の浮世絵は、日本国内に所蔵されるものよりも、良好なコンディションであったり、国内ではおよそ目にすることができない珍品が含まれたりし、多くの観客を魅了している。すでに、わが国の江戸時代に隆盛を極めた浮世絵が大量に海外に流出し、なかでもヨーロッパの印象派の画家らに影響を与えたことは、歴史や美術の教科書にも載っている、一般にも周知の事象である。また、19世紀後半から20世紀初頭にかけての西欧におけるジャポニスムについても、美術史、文化史の研究者らによって、数多くのアプローチからその実態が明らかとされてきている。けれども、広く浸透したという日本趣味と、海外の美術館・博物館に膨大な量の浮世絵が所蔵されるに至った経緯の糸は、まだまだ解きほぐされているとは言いがたい。特に、その流入の点数が最も多い米国の解明については、ヨーロッパに比べると、着手されはじめた段階と言ってよいだろう(注1)。本稿は、米国における浮世絵の受容の状況について、主要新聞の記事をもとに明らかとしようと試みるものである。具体的には、浮世絵の大型コレクションを蔵する美術館で知られる米国東海岸地域の、各有力紙に掲載された日本版画に係わる記事から、どのような作品が展示されたのかという点と、作品がいかように眺められたのかという点について読み取り、若干の考察を加えたいと考える。また、太平洋戦争開戦の間際の米国で人気を得ていた新版画へ、そのブームがどのようにつながっていくのか、検討を行いたい。このような研究は、各美術館の関係者などを含め数多くの研究者の協力をもとになされるべき内容ではあるが、ここではその一部を成果としてあげ、美術を通した異文化の理解や、交流について展望することとする。小 山 周 子
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