鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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奈良・松尾寺笈(奈良国立博物館保管)構造―高79.0cm、幅64.5cm、奥行32.0cm、木造の箱笈、構造は通常の金銅装笈である。装飾形式は①金銅装式。木材の表面仕上げは黒漆と透漆で塗り分ける。両側面に脇扉―313―海老虹梁形を表す。装飾目的の金具とは別に、躯体部の角には補強のための金具を付けるなど、強度を高めようとする意図が見られる。図様―第一区の山形は全面を金銅板で覆い、魚々子地に蓮華唐草文を彫る。第二区中央には三鈷杵形金具をつけ、二つの団円形金具のうち、向かって左は銀鍍金で三日月形とし、日月を表現している。第三区の観音開きの扉には、三重塔を並置する。向かって右の塔基壇部には如来形尊像が蓮華座上に坐し、左には智拳印を結ぶ大日如来像が坐す。第四区には左右二つの蓮台上に、向かって右は「山」、左は「伏」の字を置く。第五区には蓮華唐草文を刻んだ金銅板を貼り付ける。帖木は、上は三鈷柄剣、下は三鈷鈴を表した金具をそれぞれつけている。所見―小振りで堅牢な印象を与える。保存状態も極めてよい。永享二年(1430)山形・慈光明院笈(重要文化財)と似通った作風であり、本作も同じ頃の作と判断して差し支えないと考えられる。金具は全体的に素朴で簡素な意匠と言え、彫り口も洗練されているというわけではない。しかし金銅板は地厚で、装飾というより箱の補強のための金具という、「道具」としての初源性を強く感じさせる。また、黒漆と透漆を塗り分けているが、透漆は現状では赤みがかって見える。この色の対比が全体にリズムをもたらし、簡素でありながら引き締まった印象を与え、風格を感じさせる作例である。を設ける。なお、本笈には納入仏四体と文書四帖が附属している。図様―第一区は木立を背にして中央に長谷寺式十一面観音、その右に雨宝童子、左に難陀竜王が侍する。第二区は、雲の中に向かい合う二人の天人を表す。一人は笛を吹き、一人は散華する。二つの団円形金具を設ける。その下の横框には毬栗と栗鼠を表現するのが珍しい図様である。紐通し穴と鍵穴を穿つ。第三区は左右の扉にそれぞれ五重塔形に裁断した金銅板を付す。塔基壇部にはそれぞれ三尊形式の尊像を表すが、尊種は判然としない。第四区は俵の上に立ち袋を背負う大黒天像と八臂弁才天像を表す〔図2〕。第五区の金銅板は三分の二ほど欠失しているが、鮑などの貝類の図様を彫ったものである。両側面の脇扉内側には紙本彩色の騎獅文殊・騎象普賢菩薩像を貼る。所見―やや大型で、金銅板の刻線は太く、素朴な彫り口である。躯体部に一部補修の

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