鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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■埼玉・永源寺笈〔図7〕構造―高72.7cm、幅61.0cm、奥行40.5cm、木造の箱笈で、他の金銅装笈と同じ構造であるが、前面の扉部分をほとんど欠失している。黒漆塗り仕上げで、補強のための八■個人蔵笈〔図8〕構造―現存高72.2cm、幅63.8cm、奥行28.5cm、木造の箱笈、構造は通常の金銅装笈である。装飾形式は③金銅板張り式で、正面はすべて金銅板で覆われており、鍍金の保―315―全体によくまとまっている作例といえる。双金具なども付けない。最上部山形に三日月形が彫ってあり、また背負い紐を通す二つの穴には、通常であれば銅製の筒金具を嵌めるところを、本作は象牙製とするなど、若干異質な要素を持っている。銘文―背面に朱漆銘で「土佐州幡多生緑東旭作/太厳派寄付照室鑑光納 花押/干時弘治二丙辰年八月吉日」とある。所見―本笈は前面の扉部分をほとんど欠いている。本来は何らかの装飾が施されていたと考えられるが、柱部分などにも金銅板は残っておらず、当初から簡素なつくりであったかもしれない。木彫漆塗りのいわゆる鎌倉彫笈との関連も予感させる作例である。存状態も良好で、鮮やかに金色に光っている。新補の金具も混じっておらず、金銅板は制作当初の姿であると判断される。現状では四脚を欠失している。切断し、仏壇として使用されていたためという。箱内部後壁に彩色した紙を貼っており、金彩で描いた光背様の枠が見える。小型の仏像を安置し礼拝していたのであろうか、第三区下の横框中央部分を切断している。両側面には脇扉を設ける。下の帖木は欠失。背面・側面など、若干後世の補修の手が入っていると思われる。図様―第一区山形には、愛宕曼荼羅を彫る。向かって左から龍樹菩薩・毘沙門天・勝軍地蔵・不動明王・烏天狗を配し、背後には杉や松が生い茂る山岳の風景を展開させる。第二区袋戸には赤子を抱く中尊と十体の眷属が見えるので、訶利帝母と十羅刹女であると思われる。団円形金具にはたなびく雲の尾が表現されているので、これは日月を表現していると考えてよいだろう。第三区の観音開きの左右の扉には、五重塔とそれを取り巻く四人の天人が彫られる。向かって右の五重塔基壇部の蓮華座上に智拳印の大日如来坐像、左は菩薩形の尊像が描かれる。小脇板には昇降龍が配される。第

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