鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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■茨城・六地蔵寺笈〔図11〕構造―高81.4cm、幅67.5cm、奥行30.5cm、木造の箱笈、構造は通常の金銅装笈である。装飾形式は③金銅板張り式で、正面はすべて金銅板で覆われている。鍍金の大部分が―316―四区慳貪板には蓮池水禽図が展開するが、その中央には鳳凰を象った船に乗る数体の菩薩像と化仏が登場する〔図9〕。一種の来迎図の様にも見えるが、他に例のない図様である。慳貪板の両脇、八双金具形の枠取りの中には、松樹と藤の花房を背景に、躍動感溢れる鹿の親子の姿を彫っている〔図10〕。第五区腰嵌めには、宝珠を中心に置き、それを挟む様に向き合う龍と荒波を、そして様々な貝類を配して、海の景色を形成する。一枚だけ残る帖木には、倶利伽羅龍を彫る。また柱部や横框も栗鼠や雉、菊、藤など動植物の文様で埋めつくしている。銘文―第三区の左右の五重塔基壇部扉に「下総国住」「常讃上人」と鏨で彫る。所見―彫金の技術からすると上手作という程ではないが、モチーフの一つ一つがいきいきとし、余白も動植物の図様で埋めつくされ、溢れんばかりの生命力を発散している作例である。特に第四区慳貪板の船に乗る菩薩群〔図9〕は、その典拠など不明だが、興味深いものである。四脚が切断され、側面・背面は後補部分が混在すると思われるが、金銅板は当初のままであると判断される。本来ならば高さ80cm近い大振りの笈であったと推測される。なお、鍵穴に鉄製の金具が刺さったままになっている。剥げ落ちてはいるが、当初の金具が完備している。背面・側面の板は木地のままである。側面に脇扉があり、蝶番で留める。帖木も一枚残っている。天井板の一部が欠失する。図様―第一区は愛宕曼荼羅を彫る。山岳の風景を背に、向かって左から龍樹菩薩、毘沙門天、勝軍地蔵、不動明王、烏天狗の五尊を配する。第二区は雲を背景に雨宝童子を中心に描き、左右に迦陵頻伽を二人ずつ表す。第三区には左右の扉に五重塔を表す。塔基壇部には三尊像が表されるが、尊種は判然としない。塔の周囲は松・藤・梅などで埋めつくされ、樹間に小禽や猿が遊ぶ。水煙の両脇には奏楽の天人が飛来する。第四区の慳貪板には蓮池水禽図が展開する。池の上に枝を伸ばした松には、猿が遊ぶユーモラスな姿が表現される。第五区は波兎の図を両端に配し、中央部は貝尽しの図〔図12〕となっている。栄螺や鮑、大きな二枚貝や巻貝など、とりどりの種類を配する。側面の脇扉内側は、向かって左には長谷寺式十一面観音像とその脇侍である難陀竜王・雨宝童子が、右には千手観音像と毘沙門天・地蔵菩薩像が彫られており〔図13〕、こちらには箱の内側になるため、鍍金が鮮やかに残っている。上下二枚の帖木には籬

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