―334―『相応部』の転法輪経には見いだせず、『無碍解道』もしくは、ブッダゴーサの『清浄道論』等の注釈書中の教説等に関係があると考えられること、さらに、車軸まわりに刻まれた一頌の偈は最も特異で、原典として後代タイで編まれた経典にしか見いだせないことを述べている。② ペッチャブーン県シーテープ遺跡出土法輪 ニューアーク美術館蔵法輪の二面それぞれ、輻の間に碑文が刻まれている。この法輪には三転十二行相と十二行相それぞれから生じた眼、智、慧、明、光について説かれており、その内容はパーリ『相応部』の転法輪経の内容と一致する(注10)。数多く現存する転法輪経は、細部においてはすべてが不一致であるといってよいが、パーリ系と有部系の差異が最も際立っており、大きく区別するとこの二つの系統にわかれる(注11)。ドヴァーラヴァティーの法輪碑文はパーリ語であり、内容についても両者の大きな違いである三転の捉え方、十二行で生じる眼、智等の数等において、パーリ系と一致する。しかし、実際に彫刻された図様は後で見ていくように法輪碑文の内容と大きくかけ離れている。2.法輪図像ドヴァーラヴァティーの法輪がインドの法輪と異なる点のひとつは、両面全面に繁茂する植物文や蓮華文、幾何学文が彫刻され、また、一部の法輪にはヒンドゥー教起源の神像が、両面同じように彫刻されている点である。そして、最も特異なのはその車軸部分で、既に述べたように、その構造から中心部に別の付属物があったと考えられる点である。再び、ウートーン第11号仏塔出土の法輪の構造〔図5〕を参照されたい。下から、ハンサと唐草文の方形柱基、八角形柱身、幾何学文様の箱形頂板(一辺約50cm)、柱頭には植物文様の法輪(径約95cm)という順である。ウートーンはドヴァーラヴァティーの中心地の一つと目されており、もう一つの中心地ナコーンパトム出土の作例はウートーンの法輪に比べ巨大化したもの、図様が具体的なものが多いことが特徴づけられる。例えば箱形頂板を例にあげると、①上部を支える形姿の巻髪異形像をあらわした頂板〔図9〕は一辺約68cm、②重層建築とその花頭窓様龕から人面をのぞかせる頂板〔図10〕は一辺約105cm、また、③4面それぞれに説法する仏陀と聴衆をあらわした頂板〔図11〕は一辺約114cmで、頂板の上に載せられていた法輪もかなりの大きさだったことが想像される。筆者は別稿にて、ドヴァーラヴァティーの法輪の初
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