鹿島美術研究 年報第25号別冊(2008)
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―335―期の作例には輻輪を彫り抜き、植物文、幾何学文で装飾された例がみられるが、法輪基部に神像を彫刻したり、車軸上部に小孔を貫通させているものは認められず、ある時期から車軸部に別彫の仏陀三尊像が取り付けられ、法輪自体にも具体的に神像が彫刻されるという流れがあることを推察した(注12)。法輪の巨大化や法輪を支える頂板彫刻の具体化も同じ流れの中にあると想像される。次に、柱基、柱身、頂板、柱頭という構造をふまえ、それぞれの浮彫からその階層を考えてみたい。①支える形姿の異形像浮彫は台座や基壇にあらわされるモティーフであるから法輪柱基、もしくは直に法輪を支える台座であったと想像できる。②重層建築浮彫について、R. ブラウンはかつてインドラ神の住まう三十三天の善見城をあらわす楼閣であると同定したが(注13)、仏教経典、仏教説話中に重層建築についての記述は多く、三十三天の楼閣であるか否かについては、なお検討の必要があるように思う。ただ、重層建築とは富者、天人の住居であるという理解から、階層の高い柱上の頂板と考えてよかろう。③説法の浮彫は仏陀があらわされていることから下辺に設置されることは考えにくく、柱上で法輪を直接支える頂板であったと考えられる。さらに、柱頭にあたる法輪の階層構造は、基部(下辺)には具体的にヒンドゥー教起源の神像や天人らしき像などがあらわされ、その上の車軸中心に仏陀三尊像の浮彫石板がとりつけられたことになる。こうして見た場合、法輪は石柱上に設置されない場合でも、礼拝対象として少なくとも台座上に設置されていたはずなので、法輪図像は必ず縦軸の階層構造があるといえるだろう。柱頭 法輪中心…仏陀三尊像法輪下辺…ヒンドゥー教起源の神像、天人像、人物像頂板(台座)……楼閣 説法図柱身………………八角形柱基(台座)……支える形姿の異形像や獅子、ハンサ等の動物記述に注目し、ドヴァーラヴァティーの法輪に転法輪と有輪の二つの概念が関係しているという結論に至った(注14)。また、漢訳「根本説一切有部毘那耶」巻34にある「五趣輪廻図」の図像についても言及するが、深く追求することを避けている(注15)。R. ブラウンの法輪研究からは、浮彫の典拠となるテクストを苦心して探したことが想像できる。ブラウンは、南伝第62巻『清浄道論』中にある因果の連結によって転起する有輪bhava-cakka(Bhavaは誕生、本源、生死などを意味する。Cakkaは輪。)の

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